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長谷部千彩

文筆家/レディメイド・エンタテインメント代表
連載『WWD Beauty』『婦人画報』
著書『有閑マドモワゼル』『レディメイド*はせべ社長のひみつダイアリー』

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July 9, 2011

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100日ブログをお休みさせていただいている間、.fataleで書いてます。

*3月~6月の100日ブログでたまったアフィリエイトのお金27,715円は、
日本赤十字社の東日本大震災義捐金に寄付しました。ご報告まで。

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No.92:余震日記

June 22, 2011

5月には、咲き乱れる花に彩られていたメギッスリー通りも、
ヴァカンスを控えた6月後半、はしゃいだ活気は消え、
萎れたゼラニウムが安値で売りにだされている。
私は、埃を被ったクチナシの鉢を手に取り、クリーム色の花弁に鼻を近づける。
いい匂い。懐かしい。
すっかり忘れていたけれど、私は、地震の後、東京の部屋でクチナシの花を育てていたのだった。

それすら遠く感じる。
100日前がとても遠く感じる。
記憶が風化したわけではない。
あまりに多くのことが起こりすぎたのだ。

あの日、あの3月11日の午後、前日、明け方まで机に向かっていた私は、
ベッドに寝転んでこれからのことをボンヤリと考えていた。
誰かに何かを伝えようとして、白い天井を見上げ、考えをまとめているところだった。
それは、私にとって、とても大事なことだったはずだけど、
いまとなっては、何を伝えようとしていたのか、その内容さえ思い出すことができない。
たとえ、思い出したとしても、たぶん、それはもう何の役にも立ちはしない。
未来の前提はあの日まるごと変わってしまった。

でも、変わらなかったものもある。
それは、生き物が内包する法則性だ。
うけた傷は、生きている限り、癒えていく。
生き物は生きていこうとする。
種は重い殻を被ったまま頭をもたげて双葉を広げ、
曇天の下でも太陽をもとめてヒョロヒョロと茎を伸ばす。
私たちも、揺れ続ける大地の上で、重心をとり、時には他人の腕を掴み、掴まれ、
支え合いながら安定を図り、もとの暮らしに立ち戻っていく。

私の余震日記はここで終わりにしようと思う。
地震・津波による被災も、原発事故の問題も、何ら収束していないことはわかっている。
事態は混迷を深めている。
でも、余震日記を綴るのは、ここで終わりにしようと思う。
いまはまだパリの小さなアパルトマンに留まっているけれど、
私はまたどこかへ行きたいと思い始めている。
実際どこかへ行くだろう。


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観たことのない景色が私にはたくさんある。
私は見たことのない景色を観てみたい。
世界は瓦礫だけに埋め尽くされているわけではない。
花だとか、鳥だとか、風だとか、月だとか。
100日前まで、美しいものとして私の前に存在していた世界は、
依然、美しいまま存在している。
そう思えるようになってきたから。

私は、どんなに困難な問題が起きても、
個々に与えられた自由は最大限に享受するべきだと思う。
人生は苦しむためではなく楽しむためにある。
これだけ多くの人々が、引き剥がされるように生活を奪われ苦しんでいるときに、
何を寝ぼけたことを、と言われるかもしれない。
だけど、だからこそ、私は言いたいのだ。
人生は苦しむためにあるのではなく、楽しむためにある、と。
もしも、苦しみの中にあるならば、そこから何としても抜け出すべきだ、と。
どこにだって行ける。人は行きたい場所へ、どこへだって行けるのだ。

(余震日記/終)


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No.91:自由に歩いて愛して

June 17, 2011

ゆっくりお風呂に入ったら、センチメンタルな気分も少し収まった。
人間はつくづく単純な生き物だ。

―それは、ブルーノ・ムナーリが壊しなさい、って言ったから?
鶏の唐揚げを揚げている人の隣りに立ち、自分の気持ちを話していると、まるで子供に戻ったみたい。
台所に立つ母の隣りで話していた小学生の私と同じ。

―それもあるけど、私はもっといろいろなものを見てみたいの。
パリに居続けることが私の望みではないの。

それは本当にそう。
地震が起きてから三ヶ月、先のことなど考えられずにいたけれど、
いまはまたどこかへ行きたいと思う。

―遊びに来てね。
―チサイさんの部屋に泊めてもらおう。
―いいわよ。

私の望みは留まることなく流れていくこと。
ほどよきところでほどよき場所へ。
蝶と鳥と猫。
それが私の好きな動物。
自由に歩いて愛して。
愛することが難しいなら、
せめて自由に歩いて。


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