デスティネーション・ストア | File 042:表面張力(東京都・学芸大学)
2024.05.24

デスティネーション・ストア | HONEYEE.COM的個性派シティガイド 
File 042:表面張力(東京都・学芸大学)

スマートフォンでどこにでも行った気になれる時代。むしろスマートフォン片手に「ここにしかない」を体感しに行ってみてはどうだろう。HONEYEE.COMが選んだ“目的地になる店”を紹介する連載「デスティネーション・ストア」。今回のFile 042はその名前から「一体何屋なのか?」という想像力をフル回転で掻き立てられてしまう、2024年4月オープンのゴア料理店「表面張力」を訪ねてみた。

Text Takaaki Miyake

南米でのドラマチックすぎるアロマ体験

表面張力

学芸大学は「住みたい街」として都内でも屈指の人気エリアとして賑わうが、駅から伸びる商店街を抜けると閑静な住宅街が広がる。ほとんど店舗のようなものは見当たらないこのエリアで「最近この近くに美味しいお店ができたから」と知人に連れられたのが今回のゴア料理店「表面張力」。

基本的にはランチとディナーともにカレーをメインに提供しているが、とにかく店名も料理のジャンルも変わっている。そして話を聞いた店主の加藤さんの人生もやはり個性派だった。

「大学時代は社会学を勉強していました。当時、身内であまりに不幸ごとが多くて、実家は無宗教だったのですが、さすがにお祓いをしてもらうことになったんです。実際にお祓いが終わって『これだけで仕事になるならコレを目指そう』って、若かったのもあり軽い気持ちで考えていました」

社会学的観点からもシャーマニズムへ興味を抱き始めた加藤さんは、まだ現代でもシャーマン文化が盛んな南米に1年ほどの旅に出ることを決意。ちなみに「表面張力」の窓際にシンボルとして飾られているサボテンのペヨーテは、実際に儀式などで使われている植物だという。

南米旅行ではひたすら各地を渡り歩き、時には Supreme のプリントTにも登場した女性シャーマンの マリア・サビーナ の弟子に弟子入りするなど、テレビ番組さながらの体験をしていく。

そして最後に行き着いたアルゼンチンとチリ南部のパタゴニアで、偶然にもヒッピーらの大キャンプイベントと出会い、そのまま参加することに。その間は電気製品や貨幣の使用が禁止され、生活に必要なものは全て参加者が分業で賄ったという。

「ある日皆んなでシェアしていた調理場に行くと、インドを回ってきた人が現地で仕入れてきたスパイスを使ってカレーを振る舞っていたんです。スパイスを加える度に広がる香りがすごくて、極上のアロマ体験でしたね」

昼はカレー、夜は整体

表面張力

“シャーマン旅行”を終えた加藤さんは日本に帰国し、独学でカレーを作りながら新たなスキルも開花させていくことになる。

「友達のバイト先だったカフェのオーナーで、アーティストでもある新倉孝雄さんのお父さんが接骨院をやっていたから、ありきたりな就職もしたくなくて、とりあえず手伝うことにしました。治すことに関してすごくハイレベルな人で、シャーマニズムに通ずるとこもろあるなって。身体一つでできる仕事だから会得しようと思い、最終的には国家資格まで取得しました。

一方でカレーは一食ずつ作るのが難しくて、大量に作っては友人に食べてもらっていました。そのうちの一人が三茶でバーを経営していたので、そこのフードメニューとして提供したのを始めに段々と口コミなども手伝って、とうとうキッチンカーの出店に加えて、間借りでしたが『プラマーナスパイス』というカレー屋をオープンしました」

社会の中におけるギリギリの場所に

表面張力

その営業も好調だったが、現在「表面張力」が入る建物でお店を営んでいた知人の退去をきっかけに、物件をそのまま引き継ぐことで新たなスタートを切った加藤さん。

「『プラマーナスパイス』は元々、単純にヒンドゥー語の単語から言葉の響きや音だけで決めた店名だったんです。そうすると業者とかになかなか覚えてもらえないし、挙げ句の果てにはプラマーナという概念を研究している人からも連絡があって、すごく深読みした質問がきたりして(笑)。

移店を機に、覚えてもらえそうだけど、レビューサイト内ではすぐに辿り着けないような名前を付けたくて決めたのが今の店名です。自分の過去の経歴もそうですが、社会からギリギリで溢れるか溢れないかの瀬戸際って面白いじゃないですか」

カレー屋ではなく、ゴア料理店の所以

表面張力

「プラマーナスパイス」時代は南インドのカレーを主に作っていたが、オープン前にたまたま訪れたゴアで触れたカルチャーや味に瞬く間に魅了され、現在はゴア料理店として切り盛りしているのだという。

「ゴアは地理的にちょうどインドの真ん中辺りなので、南北の文化がミックスされているんです。自分の中で得意としている魚のカレーなんかも、現地でひたすら美味しいお店のキッチンを見せてもらって研究してきました。だけど決してストイックな現地追求型ではなく、教えてもらったレシピにリスペクトを示しつつも、自分の創作性を織り交ぜるようにしています」

表面張力

そんなフードはもちろんのこと、店内には加藤さんの原点でもありお店のコンセプトでもある、人を“より良い状態にする”という想いが随所に込められている。

世界中で集めた食器やアートワーク、わずかな風の動きも感じさせるモビール、加藤さん親子3代の機器を組み合わせたオーディオセットから流れるジャズやワールドミュージックなど、五感を刺激されずにはいられない。

ちなみに今後はディナータイムのアラカルトメニューもさらに充実していくそうだとか。加藤さんの振る舞う料理を食べながら、遠く離れたゴアの地に思いを馳せてみるのも趣がありそうだ。

DESTINATION STORES | File 42
ヒョウメンチョウリョク | 表面張力
東京都目黒区鷹番1-3-4
営業時間:11:30〜15:00(L.O.14:30)/火曜〜日曜
18:00〜21:00(L.O.20:30)/木、金、土、日
定休日:毎週月曜、隔週火曜
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