デスティネーション・ストア | HONEYEE.COM的個性派シティガイド
File 043:装身具 LCF(東京都・大岡山)
スマートフォンでどこにでも行った気になれる時代。むしろスマートフォン片手に「ここにしかない」を体感しに行ってみてはどうだろう。HONEYEE.COMが選んだ“目的地になる店”を紹介する連載「デスティネーション・ストア」。File 043はその唯一無二のジュエリーを求め、遠方からも大岡山に構えるお店を訪れる人が絶えないジュエリーショップ「装身具 LCF」。
Text Takaaki Miyake
ストリートで磨いた自らの原石
本企画内で以前登場したアートギャラリーの「LOWW」やショップの「岡の」、最近ではセンスの良いワインショップなどもオープンしている目黒区・大岡山。都心へのアクセスは決して不便でないにもかかわらず、メジャーな存在へとなりきらないこの街には、行くべきデスティネーションがまだ隠されている。そして立川博章・文子さん夫婦が手がけるジュエリーショップ「装身具 LCF」も間違いなくその一つだ。
「いわゆる就職活動と向き合ったときに、普通の仕事を選びたくなくてジュエリーと出会いました。昔から手で何かを作ったり、インディアンジュエリーが好きだったりしたので、見よう見まねで作ってみようと。だけどそれだとやっぱり難しくて、基本的な作り方を学びに専門学校へ通うことになりました」
今では根強いファンを抱える立川博章さんとジュエリーとの巡り合いはそこから始まった。最終的に2年間を学校で過ごした後、工房でさらに経験を積んで独立をするが、決して望んだ形ではなかったという。
「その頃にはある程度のモノは作れるようになっていましたが、創作という意味でのモノづくりがまだまだで。どこかに籍を置けるわけでもなく、しかたなく独立をしました。とは言ってもほぼ毎日バイトみたいな状態で、そこから一念発起をしてバイトを辞めたんです。貯めたお金を全て材料費に使い、いくつか作品をセレクトショップに飛び込みで持ち込みました。置いてくれるお店はあったものの、委託で全く売れない日々が数ヵ月続いていましたね」
状況はしばらく経っても好転することなく、ジュエリー作りを諦めるつもりで辿り着いたのが原宿の路上だった。ストリートで作品を見せると意外にも手に取る人が多く、以降は雨の日以外は毎日自らの手で販売を継続していく。
2.5坪で確立したスタイル
路上での規制が厳しくなると次第にイベントへの出店、OEMとしてや個人オーダーの制作の声がかかるようになり、次のステップへと歩みを進めることになる。
「生活は少しずつ安定してきても職業的にはフリーターだったので『何かしら肩書きがあった方が良いかな』ぐらいの気持ちでお店を持つ決意しました。そこでちょうど見つけた都立大学の物件で始めたのが、2010年にオープンした前身の店舗です」
わずか2.5坪の空間に小さな机を置いてスタートしたのが、「LCF shop +Atelier」だった。
「その頃は分かりやすい名前にはしたくなかったし、作りたいモノがその都度変わるかもしれないから、“Life Concept Factory”という活動名の頭文字を取って名付けたのが由来です」
当初はよりシンプルなデザインやシーグラスを用いたジュエリーが多かったが、それでも現在の作風へとつながるベースを着々と作り上げていった。
「お客さんの声を積極的に取り入れたり、個人オーダーで作った要素をオリジナルのデザインに落とし込んだりと、色々と試行錯誤したからこそ今の自分たちがあると思います」
職人気質であるパートナーを支えながら接客を一手に担う、立川文子さんも次のように口を揃えて説明する。
「家賃も正直身の丈に合っていたし、少し落ち着いた街の雰囲気や足を運んでくれる人たちのコミュニティ含めて、都立大時代があったからこそ時間をかけて目指す方向性やスタイルを確立できることができました」
二つとしてない儚さ
「装身具 LCF」で生まれるジュエリーの魅力は何といっても全てが一点モノ。それゆえに同じものとは二度と出会えない、刹那的な儚さが漂う。
「ダイヤみたいな輝石は石自体に高い価値がある一方で、鉱物や水晶の原石にはそれぞれの個性があって、自分の哲学とリンクしていることから惹かれていきました。石の魅力を引き出しながらデザインを考えることで、やっと今のスタイルが完成したわけです」
大量生産にリスペクトを示しながらも、自分だからこそ作れるモノづくり。この信念こそが人の心を動かし、身につけたいと思わせる原動力なのだろう。
拡張していくLCF
6年営業を続けたお店も都市開発のため移転を余儀なくされ、駅からは少し歩くが通りに面し、工房も併設可能な広さという条件も揃った現在の場所で、より明確に自分達の創作を打ち出すため「装身具 LCF」として2016年に再スタートを切ることになる。
「前回は本当にお金をかけられなくて、友達とほぼDIYで作ったけど、ここに移ってからやっと全ての夢を叶えられました」
一目ぼれした什器、お店の雰囲気をイメージして作ってもらったオーダーメイド家具など、長年かけて構想したお店のあり方を具現化させた。
「この場所に移ってからは「あの有名店で取り扱ってほしい」が一切なくなりましたね。自分たちの世界観を表現できるのは、この場所以外にないなと思っています」
移転後はInstagramでほぼ毎日投稿を続け、その全てが新作だというから驚きだ。さらに店内に並ぶジュエリーの数々は、一点モノ、それに付随する行程などを考えると決して高い価格ではない。
「コストの高騰からも葛藤はありますが、今まで作品を愛してくれてきた人たちが買えなくなるのは違うと思っていて。手に届く範囲で楽しんでほしいという気持ちが強いです」
パンデミック禍では半信半疑でオンライン販売をすると、見る見るうちにソールドアウト。予想外の反応に驚きながらも、実店舗での対話を大切にするため、現在では年に数回にとどめている。しかし一度オンラインで販売すると、やはりわずか数分で全てが完売してしまう。
これほどまでに愛されるジュエリーを作り続ける「装身具 LCF」は、この先どんな道のりを歩むのかを最後に教えてくれた。
「死ぬ間際までジュエリーは作っていたいです。もっと都心に出店したい気持ちもないので、ある意味ですでに満たされているのかもしれません。次に目指すとしたら東京以外の広い空間で複合的にやってみたいです。自分たちの作品だけでなく、僕らなりの“好き”や“良い”を紹介できると夢が広がりますね」
次のステップを心待ちにしつつ、まずは自分だけの装身具を見つけにお店の扉を開いてみよう。
DESTINATION STORES | File 43
ソウシング エルシーエフ | 装身具 LCF
東京都大田区北千束1-67-7 本橋メゾン1F
営業時間:12:00〜18:00
定休日:毎週水曜、第2・第3木曜日
https://www.instagram.com/soushingu_lcf