デスティネーション・ストア | File 044:紡ぐ-洋品店-(東京都・世田谷区松原)
2024.06.21

デスティネーション・ストア | HONEYEE.COM的個性派シティガイド 
File 044:紡ぐ-洋品店-(東京都・世田谷区松原)

スマートフォンでどこにでも行った気になれる時代。むしろスマートフォン片手に「ここにしかない」を体感しに行ってみてはどうだろう。HONEYEE.COMが選んだ“目的地になる店”を紹介する連載「デスティネーション・ストア」。File 044はエリア的に複数の駅に囲まれながら、どの駅からも徒歩10分以内には辿り着けない、本企画にぴったりなセレクトショップ「紡ぐ-洋品店-」。

Text Takaaki Miyake

教育の場からファッションへ

2024年4月、世田谷区松原にセレクトショップ「紡ぐ-洋品店-」がオープンした​​。周辺には松原駅・明大前駅・豪徳寺駅など6ヶ所ほどの駅があり、その全てが最寄りではあるものの、歩くと10分強〜20分という場所に店を構えている。

長年ファッション業界でキャリアを積んだからこそ、あえてこの閑静な住宅街を選んだのかと思いきや、店主の宮澤創​​さんはオープンの数ヶ月前まで教員として学校に務めていたという。

「大学を卒業してからなので、15年は教員として働いていましたが、高校時代からファッションが好きで、ずっと古着屋やセレクトショップを巡ったりしていました。あるタイミングから、いつかそういった世界で仕事をしてみたいとも思っていたんです。

だけど同時にできるほど甘くはないのは理解していたので、自分の夢に挑戦するために教員を一度きっぱりと辞める決意をしました」

お店と自宅の共存

好きだからという純粋な想いから進んだファッションへの道だが、いきなりのショップオープンに対する不安や躊躇はなかったのだろうか。

「やりたかったのは単に洋服を売るだけでなく、一着一着にまつわるストーリーや素材へのこだわり、デザイナーの想いを直接伝える場所を作りたかったんです。そこから本格的にファッションの世界へ挑戦しようとした経緯があるし、自分自身がその方が面白いと思えるのでお店以外は考えていませんでした」

そのような信念から現在はオンラインでの販売を一切考えておらず、あくまでオフラインでのコミュニケーションだけにこだわっている。

「周りからは『突然自分でやるなんてすごいね』とか言ってもらったんですが、結局はやるだけに尽きると思っています。実際にやってみて分かったのが、続くかどうかは別にして、極論は誰でもやればできるということです」

とは言ったもののタイミングや縁、とりわけ物件との出会いには恵まれていたという。実は「紡ぐ-洋品店-​​」が入る物件は3フロアで構成され、1階がショップスペース、2・3階が自宅になっているユニークな作りになっている。

「最初から駅近じゃない場所で考えていました。駅からは少し歩くけどカッコいいみたいなお店をイメージしていて、不便だけど目的地になるという立地で探していたら偶然ここを見つけたんです」

その店内の奥へ進むと、一見すると宮澤さん個人のワードローブが商品のように並び、これもショップと自宅が共存するからこそできる試みだ。普段からもこのスペースはオープンになっており、一緒にワードローブの洋服を見ることで会話のきっかけになることも多いそう。

人も洋服も、想いも紡いでいく

「紡ぐ-洋品店-」で取り扱うのは来店に繋がることを意識したセレクトではなく、宮澤さんが以前から好きだったブランドのみに限られている。取材時には NEZU YOHINTENETHOSENSKUONi’m here に加え、自身もコレクターだというヴィンテージのアイウェアがラインナップしていた。​

「もちろんデザインがカッコいい、シルエットがキレイであることも理由としてはありますが、細かい部分に着目して深掘りすると、どのブランドも背景にあるエピソードが面白い点が共通していると思います。店名が指すようにお客様と洋服、そして色んな方の想いまでをしっかりと紡いでいくことを意識しています。

実は物件を見つけてから急遽オープンが決まったので、気付いたらそのシーズンの展示会が終わっていたんです。だけどお取り扱いしたいブランドへ直接コンタクトをして、いくつかのブランドに関しては現行のシーズンでなく、アーカイブを特別にリリースさせていただきました。そういった取り組みもお客様には楽しんでいただけたと思います」

強みを活かしたお店作り

オープンから数ヶ月経過した現在、宮澤さんがこれから目指すお店の在り方を教えてくれた。

「まずは来てくださった方としっかりコミュニケーションをしながら、買わなくても気軽に足を運んでもらえる場所にしていきたいですね。来店していただければ、洋服を買うだけではない楽しさをお伝えできる自信はあります。実際に数時間滞在される方も珍しくないですし、最近は近くの方も気にして覗いてくれることもあるので嬉しいです」

飽きられずに、何度も「紡ぐ-洋品店-」を訪れてもらえるように。この想いから今後はショップスペース以外にも2階へと広がるバルコニーを利用したイベントなど、ここならではの催しも予定しているのだとか。

宮澤さんが“紡いでいく”この先のストーリーを楽しみにしていきたい。

DESTINATION STORES | File 44
ツムグヨウヒンテン | 紡ぐ-洋品店-
東京都世田谷区松原5-20-1
営業時間:12:00〜18:00
定休日:火・水曜日
https://www.instagram.com/tsumugu_yohinten_/