レーベル創立55周年イヤーにVektor shop® とコラボレーション
Edit & Text by Yukihisa Takei(HONEYEE.COM)
Photo by TAWARA(magNese)
写真素材提供 : アルファミュージック
伝説のレーベル アルファミュージック とは?
2020年に再始動した日本の伝説的音楽レーベル、アルファミュージック(ALFA MUSIC)が創立から55周年を迎え、「ALFA 55」と銘打ったプロジェクトを展開している。
アルファミュージックは、1960年代後半から80年代をかけて日本の音楽シーンを牽引したレーベル。ユーミンこと荒井由美(松任谷由実)を発掘し、YMO(イエローマジックオーケストラ)を世界に発信しただけでなく、数々の洗練された音楽やユニークな個性を持ったミュージシャンを世に送り出してきたことで知られている。
昭和後期にインディペンデントな存在から世界的な活躍で一時代を築き、平成期にはほぼ姿を消していたが、令和になって復活を遂げたこのレーベル。そのヒストリーや功績は、関連書籍が何冊も出るほど起伏に富んでいるので、ここで全てを伝えるのは困難だ。
しかし、旧来ファンだけでなく、シティポップ流行の延長で知った世代や、海外の音好きからも注目を浴びて復活を遂げたのは、単なるノスタルジーではなく、アルファミュージックが生み出した音楽が現在も鑑賞に耐える高いクオリティがあったことは間違いない。
今回、HONEYEE.COMでもお馴染みのGraphpaperやFreshServiceなどのディレクションを手掛けるクリエイティブディレクター 南貴之 が、アルファミュージックとのコラボレーションを発表した。奇しくも南が代表を務める会社の社名もアルファ(綴りはalpha.co.ltd)であり、南もアルファの音源を愛するひとり。
東京・代々木のショップでは、2024年7月23日(火)にアルファミュージック関連の音源で構成するイベント ALFA NIGHT TOKYO VOL.1を開催し、南が手掛ける第3のライン、Vektor shop®でコラボレーションTシャツもリリース。同店ではアルファミュージック関連旧譜の中古盤も発売される。
そのきっかけを作り、今回のプロジェクトでも中心的役割を果たしているのが、新生アルファミュージックの第一弾所属アーティストで、音楽ユニットのRYUSENKEI を主宰するミュージシャン、クニモンド瀧口 である。
イベントを間近に控えた Vektor shop® の店頭で、南と瀧口にアルファミュージックの魅力、そしてそれを現代に問う意味について話を聞いてきた。
それぞれのアルファミュージック観
― お二人の出会いはいつ頃ですか?
南 : 僕が(東京ミッドタウン日比谷の)「ヒビヤ セントラル マーケット」をやっていた時だから、2018年とかですよね。
瀧口 : 僕は2001年から音楽活動をやっているのですが、並行して色々なブランドの仕事やイベントオーガナイザーもやっていました。初めて南さんにご挨拶したときに、自分が音楽をやっていると伝えると、RYUSENKEIを知っている、アルバムも持っていると言ってくださって。
南 : 「え、RYUSENKEIの人だ!」と。そこから仲良くさせてもらったんですよね。
― 南さんはアルファミュージックの音源は昔からお好きだったのですか?
南 : リアルタイムではないので、ちゃんと認識したのはこの10年くらいですね。自分が買うレコード、聴く音楽が「結果アルファ」っていうことが多かったんで、何か共通するものがあるのかな。僕はプロじゃないので分からないですけど、それがそのレーベルの個性ということかもしれないなと。
― アルファミュージックの音には、やはりどこか共通する個性がありますよね。ちなみに南さんの会社名と同じ「アルファ」ですが、そういう縁も感じていたのですか?
南 : アルファミュージックの社名の綴りが「ALFA」で、ウチが「alpha」なのですが、気づいた時に、「うわー、こっちの方がカッコいい!」とショックを受けたんですよ。一瞬真剣に社名変更を考えましたもん(笑)。
― 今回の取材に向けて、アルファのことが書かれた書籍(『[アルファの伝説]音楽家 村井邦彦の時代』 松木直也 著)を読んでいたのですが、それによると、本当はAlpha にしたかったけど、創業者の村井さんたちが登記の際に間違えてALFAにしてしまったそうですよ。
南 : えっ? そうだったんだ。
瀧口 : 南さんはやっぱりデザイン的にも見ていますよね。このロゴもそうですが。
南 : 本当にこのロゴは素晴らしいなと思って、今回もTシャツにしたんです。
― 実は同じ本で知ったのですが、このロゴ、石岡瑛子(※)さんのデザインらしいですね。
※ 石岡瑛子(Eiko Ishioka)… 1938年生まれの日本のアートディレクター。資生堂、パルコの広告、舞台衣装などにおいて数々の伝説的な仕事を遺している。マイルス・デイビスの『TUTU』のジャケットデザインではグラミー賞も受賞。2012年没。
南&瀧口 : えーっ!!
南 : 僕もネットでは調べたんですけど、やっぱり本じゃないと書いていないこともあるんですね。道理で凄いデザインのわけだ……。
瀧口 : 僕も知りませんでした。ALFA の旧ロゴは、最近出たリンダ・キャリエールのアルバム(『Linda Carriere』)のジャケットに使われていますが、これもカッコいいんですよね。
― 細野晴臣さんがプロデュースしていたけど、社長の村井さんの一声でお蔵入りになったという幻のアルバムですね。それがまた何十年後にリリースされるというのは、細野さんのその後の活躍も大きいと思いますが、アルファの音源はやはり時代耐性があるということですよね。
南 : 「音楽」として成立することを一番に追求していたんでしょうね。あと社長の村井さん自身が音楽を作っている人(作曲家)であり、その人がプロデュースする側なのも大きいと思います。普通の社長はもっと「売れること」とか、音楽性よりもセールスのことを考えてしまうところが多いと思うんです。制作費もかなりかけていたそうですし。
瀧口 : アルファって、その音が時代を反映しているのもあるんですけど、日本国内にとどまっていない、世界に向かっていた視点が僕は一番凄いと思いますね。
南 : そこもそうですね。
瀧口 : カシオペア(Casiopea)(※)なんかもそうですが、YMOも世界、特にアメリカで成功していますよね。半世紀経って、今や海外でもシティポップが流行り、その中でアルファというレーベルも再認識されているのですが、海外の若者の方がアルファのことを知っているかもしれないです。新生アルファも世界的なシティポップ再評価の中で、過去のカタログ、ライブラリーをいかに海外に出していくか、という考え方だったらしいんです。だから昔も今も海外に目が向いているんですよ。
※ カシオペア … 1979年にアルファからデビューした日本のフュージョンバンド。インストゥルメンタルで日本のチャートを賑わし、世界進出も果たしている。
― レーベル復活にはそういう意図もあるのですね。RYUSENKEIもそのひとつですか?
瀧口 : 僕はソニーからRYUSENKEIで声をかけられた時に、「アルファミュージックから出せないのですか?」と聞いてみたら、出せることになったんです。僕がそれを言わなかったら、アルファの新譜って出ていないのかもしれないです。
新生アルファミュージックにおけるRYUSENKEI
― 今後アルファミュージックとしては、過去盤だけじゃなくて、RYUSENKEI以外にも新しい音源を作っていく構想はあるのですか?
瀧口 : うーん、どうでしょうね。RYUSENKEIが売れたら、じゃないですか?(笑)。僕がコケたら今後ないかもしれない。
南 : 瀧口さん、凄いところにいますねえ(笑)。
瀧口 : そういう意味でも新譜(『ILLUSIONS』)は気合を入れて作ったところはあります。まあ、それでも時代の流れはありますからね。シティポップブームとは言え、ヒットチャートに上がっているのはまた違う音楽が主流じゃないですか。この昔っぽい音が受けるのかは分からないですけどね。
― RYUSENKEIは、アルファが作ってきたような音へのリスペクトがすごくありますよね。
瀧口 : でも、古いことをやっているつもりはないんです。昔の音楽が好きだから古い音楽がやりたいのではなく、僕はこういう生演奏で、ソウルだったりジャジーであったりする音が好きで、一般的にAORと呼ばれるようなものですが、それを今でもやっていいじゃんと思うんです。「新生アルファに期待していたのに、新しい音楽じゃないからがっかりした」と言ってくる人もいます。でも新しい音楽って何なの? と僕は思います。やっぱり僕が作りたいものは心地いいものだし、それが10年後にやっぱりアルファの音だよね、と言ってくれるのかもしれないと思っています。
― RYUSENKEIのニューアルバムのジャケットにも、デザインの一部としてアルファのロゴが入っているのが「決意表明」のような感じがしますね。
瀧口 : それまではアルファというのがあまりドーンと出せなかったんです。ソニーさんが買い取る前は、小さくALFAと書いてあったくらいだったので。
― 南さんは今回Vektor shop®でロゴを印象的にTシャツに使用していますけど、当然アルファのジャケットデザインなども取り組みの要因にはなっていますよね。
南 : 本当にそう思いますね。アーティストのレベルも当然高いんですけど、やっぱりデザイン面もクオリティが高いというか、今見てもかっこいい。
瀧口 : YMOのジャケットデザインもずっと奥村靫正(※)さんがやっていたりしますしね。
※ 奥村靫正(Yukimasa Okumura)…1947年生まれの日本のアートディレクター。YMO、細野晴臣をはじめ、数々のミュージシャンのアルバムジャケットを手掛け、広告や舞台美術でも活躍。
時代を超えてカルチャーとクロスするレーベル
― 音楽もそうですけど、こうしてデザイン、人物、ヒストリーが入り乱れてカルチャーになっているようなレーベルって、なかなかないですよね。今で言うとカクバリズムあたりはそれに当たるのかもしれないですけど。
瀧口 : カクバリズムは確かに近いかもしれないですね。独特のブランドもあるし。アルファの場合、携わっているメンバーが遊び感覚を持っているところも面白いんですよね。
― そうですね。“迷盤”として知られるタモリさんの「タモリ」シリーズを出したのもアルファミュージックですし、最初に日本語ラップを音源化したとも言われるスネークマンショー(※)もそうですよね。
※ スネークマンショー… 1975年に桑原茂一と小林克也が始動したプロジェクト。1976年に伊武雅刀が加入し、ラジオやCMなどでも活躍。
瀧口 : その遊びの感覚は、南さんにも近いものを感じますよ。南さんも最初は呑みから入るから(笑)。今回も呑みながら「オレ、アルファ好きなんだよね」、「じゃあ、やる?」という話になったので。そういう感覚がこの時代もあったんでしょうね。村井邦彦さんがいて、川添象郎(※)さんがいて、細野晴臣さんがいてという、仲間たちがやっている感じがカルチャーになった。
※ 川添象郎(Shoro Kawazoe)…1941年生まれの音楽プロデューサー。アルファミュージックで村井邦彦とともに作品のプロデュースを担当。
南 : 周りの人たちも含めてね。結果的に今振り返るとすごい方々なんだけど。
瀧口 : ユーミンがいたり、シーナ&ザ・ロケッツがいたり、戸川純さんがいたり。
南 : 吉田美奈子さんもいますからね。
― 今って少し前に比べると、ファッションとカルチャーが少し遠くなっている部分がありますよね。南さんのプロジェクトの中では、このお店やVektor shop®ではカルチャーを取り入れていると思うのですが、それが伝わっている感触はどれくらいありますか?
南 : 伝わっている部分、そうでもない部分、両方ありますね。僕は色んなことがもっと近づいていると思っていたんです。でも、最近「寄」や「小川珈琲」などで“食”を扱ってて思うのは、意外とそこは乖離しているというか。それをどうにかして繋げる、ハブになるのが僕らの仕事なので、色んなことをしていきたいですけどね。僕がいま一番不安なのは、今回アルファが分かる人がいるのかどうか(笑)。
瀧口 : よく分からないけど着る人がいて、このロゴが流行る可能性はありますしね。南さんパワーで。
南 : いやいや、そんな力はないですけど(笑)。
瀧口 : でもアルファミュージックとしても課題のようです。どうやって若い世代に届けるのか。
南 : だったらもっとレギュレーションをユルくして欲しいな(笑)。今回ちょっと制約が多くて苦労しました。本当はもっと色々作りたかったんですけど。
瀧口 : 商標だとか、写真の権利、アーティストの権利、デザインした人の権利などが入り組んでいますからね。本当は今回も佐藤博(※)さんの『AWAKENING』のジャケットデザインでTシャツを作りたかったんですけど、それも今回は難しくて。
※ 佐藤博(Hiroshi Sato)… 1947年生まれのミュージシャン。卓越したピアノ、キーボードでさまざまなミュージシャンのサポートでも活躍。2012年逝去。
― それは残念。あったら欲しかったです。あの音楽もそうですが、ジャケットも素晴らしいですよね。
南 : あれが作れたら、絶対かなりの枚数を作っていましたけどね。僕らはVektor shop®のオリジナルボディを使っているので、普通のプリントTよりもちゃんと“ファッション”なものが作れるので。
― それにしてもデザイン財産も多いレーベルですよね。プロジェクトが継続して、そういったジャケットなどがプロダクト化することを待ち望んでいる人は多いと思います。そして今回のVol.1イベントの盛り上がりも楽しみですが、どのような内容になりますか?
瀧口 : DJにMUROさん、高橋幸宏さんとも交流のあった青野賢一さん、僕が前半後半にアルファの関連作品を流す感じです。あと今回はELLA RECORDSさんの協力で、アルファの旧譜の中古盤を多めに集めていますので、興味を持った方は入手可能です。あと、RYUSENKEIの『ILLUSIONS』のアナログ盤もここで発売になりますので、ぜひ手に取ってみてください。
南貴之 & クニモンド瀧口によるアルファミュージック 音源 私的BEST 5
南貴之's ALFA MY BEST 5
『ひこうき雲』 荒井由美
『イエローマジックオーケストラ』 YMO
『LIGHT'N UP』 吉田美奈子
『スーパー・ジェネレイション』 雪村いずみ
『awakening』 佐藤 博
クニモンド瀧口's ALFA MY BEST 5
『はらいそ』 細野晴臣
『SOLID STATE SURVIVOR』 YMO
『ミスリム』 荒井由実
『愛は思うまま』 吉田美奈子
『Eyes Of The Mind』Casiopea
[INFOMATION]
ALFA MUSIC × Vektor shop® Tシャツ
各 ¥7,480
カラー : ホワイト、ブラック
ALFA NIGHT TOKYO VOL.1
日時 : 2024年7月23日(火) 17:00 ‒ 23:00
開催場所 : Vektor shop® 東京都渋谷区代々木3丁目38-10 1F
Profile
南貴之 | Takayuki Minami
1976年生まれ。クリエイティブディレクター。2012年に株式会社alphaを設立。設立後、国内外の様々なブランドの PR 事業部、ショップのディレクション、空間デザイン、イベントのオーガナイズなどを手掛ける。Graphpaper、FreshServiceのディレクションを中心に、2023年にオープンした東京・代々木のGraphpaper直営店をメインにした複合施設では、新レーベルVektor shop®、飲食のセレクトショップ 「寄」などを手掛ける。
https://alpha-tokyo.com
https://graphpaper-tokyo.com
https://www.instagram.com/minamialpha/
クニモンド瀧口 | Cunimondo Takiguchi (RYUSENKEI)
1969年生まれ。ミュージシャン PR、アパレル、レコード屋、ライブハウスを経て2003年に流線形のメンバーとして音楽活動を開始。『シティミュージック』(2003年)、『TOKYO SNIPER』(2009年)で、現在のシティポップの隆盛を予見。プロデューサーとしても活躍し、2020年にシティミュージックを選曲監修したコンピレーションアルバム・シリーズ『City Music Tokyo -invitation-』をリリース。2024年に新生アルファミュージック所属アーティスト第一弾として『ILLUSIONS』をリリース。
https://www.ryusenkei.com
https://www.instagram.com/cunimondo/
アルファミュージック | ALFA Music
1969年に作曲家・プロデューサーの村井邦彦によって設立された ミュージック・パブリッシャー/音楽制作会社、後にレーベルとして、数々の洗練されたポップミュージックを世に送り出す。作曲家であった荒井由実をシンガーソングライターとしてデビューさせ、 YMOを全世界で成功させるなど、日本の音楽シーンを牽引。2020年にアルファミュージック創立50年を機にソニー・ミュージックグループでの再出発と、創立50年プロジェクト「ALFA50」の始動を発表。55周年の今年は「ALFA55」として、さまざまなプロジェクトを展開している。
https://alfamusic.co.jp
https://www.instagram.com/alfamusic1969/
[編集後記]
個人的にアルファミュージックには結構な思い入れがある。小学生の時に手にしたYMOのレコードの盤面、そして中学生の頃になぜか熱中したカシオペアの音源の数々には「ALFA」と書いてあり、トライアングルロゴも目に焼き付いていた。当時の自分には「レーベル」という概念すらなかったが、聴いていた音楽は自分の音感みたいなものに確実に刻まれているし、80年代のあの洗練された音は、時代の空気にフィットしていたように感じる。その後もアルファ関連の音楽は聴き続けていたので、レーベルの復活や、今の時代に改めて受け入れられていることは純粋に嬉しい。(武井)
※ 当記事では、アルファレコード、アルファ&アソシエイツなども含んだ意味で「アルファミュージック」に統一しています。