大規模個展 「記憶の冒険」を見届けるようにして 88歳で旅立つ
Text Yukihisa Takei
Photo TAWARA(magNese)※ 2022年11月取材時
HONEYEE.COMでも2022年に取材している、日本を代表するアーティストのひとり、田名網敬一が亡くなったことが2024年8月20日、所属ギャラリーのNANZUKA UNDERGROUND から公表された。享年88歳。
下記に公式リリースの一部を抜粋する。
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弊社所属アーティスト田名網敬一が、8月9日に永眠いたしましたことを、謹んでご報告申し上げます。
2024年6月後半に骨髄異形成症候群を患っていることが判明し、療養を続けておりましたが、その後7月末に突如くも膜下出血を発症し、帰らぬ人となりました。
今回の国立新美術館における回顧展の開催は、田名網の夢でした。自身の集大成である本展を誰よりも心待ちにして、一日も早い復帰を目指し治療とリハビリに励んでおりましたが、容態の急変により、皆様にこのようなご報告をしなければならなくなりましたことは、誠に無念でなりません。
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つい先日の2024年8月7日、田名網として初となる公立の美術館における大規模個展「田名網敬一 記憶の冒険」が国立新美術館で開幕したばかり。田名網の逝去が8月9日だったことを考えると、自らも楽しみにしていた個展開催を見届けるようにして旅立ったようにも感じられる。
溢れ出す色彩とイメージは日本国内のみならず世界のアートやグラフィック界に影響を及ぼし、またファッションの領域においても数々のコラボレーションによって多くの人を魅了してきた田名網。長年に及ぶその精力的で膨大な仕事の数々は、現在開催中の個展(2024年11月11日まで)で確認することが出来る。まだ個展を観られていない読者はぜひ足を運んで欲しい。
HONEYEE.COM編集部一同 心よりお悔やみを申し上げます。
[編集者より]
2022年11月にNANZUKA UNDERGROUND で開催された個展「世界を映す鏡」の際、田名網さんのアトリエで取材をさせていただいた。その時はピカソの模写シリーズを300点以上も発表をされていた時期で、当時86歳という年齢ながら、あまりにパワフルな創作姿勢に驚き、以下のようなやりとりをしている。
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― 田名網先生は「アートや創作に年齢はない」ということを自ら証明されている印象があります。創作活動を続けられるパワーの源は何でしょうか。
「あまり考えたことはないけど、70歳くらいになった時に、一般的に“70歳”というイメージってあるじゃないですか。そろそろ絵を描くのが苦痛になるかなとか、制作意欲が衰えるとか、意欲はあっても僕の体力が持たなくなるかなとか、いろんな問題にブチ当たるだろうと思いました。でも、75歳になっても85歳になっても、そして最近はもう考えなくなっちゃったけど、そういうのにあまりブチ当たらなかったんです。40代くらいから同じようなペースでやってきたけど、今までの自分の人生の中で、今が一番やっているのかもしれないと思いますね」
― 今が一番描いているというのは驚きです。
「例えば足が痛い、腰が痛い、の状態では大きい絵は絶対に描けないんです。だから絵描きが老年になってくるとみんな絵が小さくなってくる。ダリもそうだし、ほとんどの画家はみんなそう。だけど僕は今でも大きい絵を普通に作るんだけど、肉体的に苦しいとは全然思わないんです。だからこの調子だとしばらく大丈夫かな、という状態ですね」
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病魔がなければまだまだ創作を続けていたに違いない田名網さん。その“尽きない想像力”は旅立った先でも続けられているに違いない。真摯に取材に対応いただいたことを改めてお礼申し上げつつ、故人の冥福を祈りたい。(武井)
[INFORMATION]
「田名網敬一 記憶の冒険」
会期:2024年8月7日(水)〜11月11日(月)
会場:国立新美術館 東京都港区六本木7-22-2
開館時間:10:00〜18:00
※毎週金・土曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで
https://www.nact.jp/exhibition_special/2024/keiichitanaami/