現代アーティスト 舘鼻則孝と北陸・富山
2024.10.09
舘鼻則孝

©NORITAKA TATEHANA K.K., Photo by GION

GO FOR KOGEI も開催中の富山をアーティストと旅する2日間

Text Yukihisa Takei

舘鼻則孝と富山の繫がり

舘鼻則孝

©NORITAKA TATEHANA K.K., Photo by GION

舘鼻則孝Noritaka Tatehana)は日本古来の文化や技術を継承しながら、現代的な解釈で表現活動を続ける現代アーティストだ。特にその名を世界に知らしめたのは、遊女が履く高下駄から着想を得た代表作でレディー・ガガも着用した「ヒールレスシューズ」。舘鼻の作品はニューヨークのメトロポリタン美術館やロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館などに収蔵されており、その活動はアート、工芸、そしてファッションの側面からも注目されている。今年2024年3月には東京の伝統技術を舘鼻のクリエイティブによって再提示した「江戸東京リシンク展」も大きな話題を集めた。

今回HONEYEE.COMは舘鼻からの招待を受け、舘鼻とともに富山県に向かった。

あえてこの時期に富山に赴いたのには二つ理由がある。ひとつは2024年9月14日(土)から10月20日(日)まで、富山県富山市と石川県金沢市のふたつのエリアで開催されている工芸作品や現代アートの祭典、「GO FOR KOGEIを観に行くこと。ここには舘鼻が現地で制作した作品含め、代表作の「ヒールレスシューズ」なども展示されており、舘鼻の最新のクリエイティブを体感できるものとなっている。

そしてもうひとつは、富山の地元優良企業でありホテル事業も運営する 株式会社アイザック が舘鼻作品を多数所有しており、この時期にその2つのホテルでその作品群の展示がされているからでもあった。

立山連峰と富山湾を一望するホテルスパの壁面が現代アートに

舘鼻則孝

初日、舘鼻に案内されたのは、漁港でもある富山・魚津市の「ホテル グランミラージュ」。ここはビジネス中心のホテルではあるが、近年アイザックが運営をすることになり、段階的に改装が進んでいる。その最上階に新設されたサウナ施設「スパ・バルナージュ」の壁面を任されたのが舘鼻だ。

ホテルの最上階にある「スパ・バルナージュ」は、外風呂に出ると富山湾と雄大な立山連峰の景色を見ることが出来る。山と海の絶景を堪能する「絶景サウナ」と 、空間に没入できる「瞑想サウナ」の2種類のサウナがあり、改装後は“サウナー”たちが目がけてやって来る施設へと進化した。

舘鼻則孝

スパ内部において舘鼻は、立山連峰や稲妻をモチーフとしたタイル画をデザイン。近年浴場の内装は簡素化が進んでいるが、あえて手のかかるタイルを細かく敷き詰めたアート作品にしたのは、現代アートのコレクターでもあるアイザックのオーナーによるリクエストだという。ちなみにこのホテル1Fにはギャラリーも併設されており、村上隆千住博 など歴々たる作家の作品も鑑賞することが出来る。ビジネスホテル、スパ施設でありながらアート体験が出来るという意味では、全国的にも珍しいだろう。

ちなみに「スパ・バルナージュ」のマーチャンダイズの一部は舘鼻が手がけており、ハイセンスなスーベニアとして人気を呼んでいる。

舘鼻則孝

約300点もの現代アートや工芸作品が出迎えるラグジュアリーホテル

舘鼻則孝

舘鼻と我々はその後、富山市中心部から少し離れたロケーションにあるホテル、「リバーリトリート雅樂倶(がらく)」に向かった。2000年に開業したというこの施設は、館内外になんと約300点(!)もの現代アートや陶芸作品が置かれているという、日本はおろか世界的にも珍しいラグジュアリーホテル。敷地の屋内外に日本の現代アーティストの作品が置かれており、そのクオリティも美術館クラスの作品を体感できるようになっている。

また、2005年に本館と接続する形でオープンした「リバーリトリート雅樂倶ANNEX」の建築は内藤廣ないとう ひろし)による設計で、建築的な視点でも語られることの多いデザインホテルとなっている。

舘鼻則孝

全23室の客室は、それぞれ異なるコンセプトで作られており、各室が1、2家族がゆったりと使えるほどの広さを誇り、さらに各室にもアート作品が置かれており、まさに“アートと滞在する”が高次元で実現されている。

ちなみにホテル内の「レストラントレゾニエ」は、2021年にミシュラン一つ星を獲得しており、海と山の幸に恵まれた富山の食や、魚津市のワイナリー「KANATA WINERY」とのコラボレーションワインなどを堪能でき、視覚的なものに留まらない満足度も追求している。

このホテル館内に舘鼻作品は立体から平面作品まで複数展示されており、滞在した人々の目を楽しませている。これらが単にギャラリーとして作家の作品を飾っているのではなく、購入されたものであるという点も特筆すべきだろう。これは「リバーリトリート雅樂倶」を運営する株式会社アイザックが、単なるアートの収集や展示を目的としているのではなく、地域貢献を最重視しているからこその活動である点も補足しておきたい。

北陸に行くべき動機を作るGO FOR KOGEI 

舘鼻則孝

©NORITAKA TATEHANA K.K., Photo by GION

2日目、リバーリトリート雅樂倶をあとにした我々は、舘鼻とともに富山市の岩瀬地区で行われている工芸とアートの祭典「GO FOR KOGEI」へ。「GO FOR KOGEI」は2021年にスタートした試みで、工芸そのものというよりも、工芸的手法を土台にした現代アート作品を街の随所で展示するものとなっており、2024年で4回目の開催を迎えた。

2024年の参加作家のラインナップは以下の通り。

(参加アーティスト)
赤木明登×大谷桃子、石渡結、磯谷博史、伊能一三、岩崎努、岩村遠、柿沼康二、川合優×塚本美樹、サリーナー・サッタポン、澤田健勝、 釋永岳、 五月女晴佳、 竹俣勇壱×鬼木孝一郎、 舘鼻則孝、 外山和洋、 松山智一、 三浦史朗+宴 KAI プロジェクト、 八木隆裕、 安田泰三(五十音順)

“工芸”と聞くと器や伝統工芸品だけを想起してしまうかもしれないが、参加アーティストや作品も現代アートやデザインの括りで紹介されるようなコンテンポラリーなものとなっており、いわゆる“古臭さ”は皆無。それが富山市と金沢市の2つのエリアで展開されており、伝統的な技術や文化を基盤にしたアートが、現代でも活き活きと脈動していることを実感出来るものとなっている。

舘鼻の作品は、富山市の中でも古い街並みが残る岩瀬エリアにある歴史的酒造 「桝田酒造店 満寿泉」と、クラフトビールのブリュワリー 「KOBO Brew Pub」に展示されている。

舘鼻則孝

「桝田酒造店 満寿泉」の酒造蔵で現地制作された舘鼻による「Descending Painting “Unryu-zu”, 2024」は、魚津市の「ホテル グランミラージュ」内のスパ施設「スパ・バルナージュ」の作品にも近い、日本の雷図を現代的に解釈したもので、酒蔵の中二階の床面全体に描かれた大きな平面作品。テニスのUS オープンなどでも使われている耐久性が高く、色数と発色も豊かな特殊なインクを使用して、くっきりと力強い色使いが特徴の作品となっている。

舘鼻則孝

©NORITAKA TATEHANA K.K., Photo by GION

この作品は「GO FOR KOGEI」期間中は一般展示もされるが、それ以外の時期は桝田酒造店の関係者のみが特別な時に使用する場所として半永久的にここに残ることになるという。

期間中は舘鼻の代表作「ヒールレスシューズ」も大きな酒造樽のある通路に展示されており、違和感と共に不思議な調和が感じられる空間を演出している。

舘鼻則孝

©NORITAKA TATEHANA K.K., Photo by GION

「旧馬場家住宅」の米蔵を改装し店舗と醸造所を併設した「KOBO Brew Pub」に展示されている舘鼻の平面作品も巨大なカウンターの目の前に展示されており、大きなインパクトでビール愛好家達を出迎える。

舘鼻則孝

©NORITAKA TATEHANA K.K., Photo by GION

「桝田酒造店 満寿泉」、「KOBO Brew Pub」ともに、歴史ある建造物をそのまま活かした形で現代の中でも存在感を発揮しているが、日本の伝統的な文化や技術をベースに最新のアートを生み出している舘鼻則孝の作品と見事な調和を見せている。これはアートがそれ単独で成立しているのではなく、様々な歴史の中でアップデートを繰り返してきた結果として存在していることを体現していると言って良い。

歴史の上に階層を作り続ける街とアート。そこには高い美意識を持った人々が介在しているからこそ美しいレイヤーが重なっていくことを、現在の富山が体現している。

[INFORMATION]
リバーリトリート雅樂倶
富山県富山市春日56-2
TEL : 076-467-5550
https://www.garaku.co.jp
https://www.instagram.com/river_retreat_garaku/

スパ・バルナージュ (ホテル グランミラージュ 内)
富山県魚津市吉島1丁目1−20 グランミラージュ 9F 
営業時間:  : 10:00〜20:00 ※ ホテル宿泊者は15:00〜23:00 / 6:00〜9:30
TEL: 0765-24-4411
大人2,500円  小人(4歳以上)1,200円 ※ ホテル宿泊者は無料
https://granmirage.jp/spa_balnage/
https://www.instagram.com/spa_balnage/

GO FOR KOGEI
https://goforkogei.com
https://www.instagram.com/goforkogei/
※ 2024年の開催は10月20日(日)まで

[編集後記]
今回は舘鼻則孝さんのエスコートによって富山のごく一部を体感したわけだが、控えめに言ってかなり富山の底力に驚かされ、インスパイアを受けたツアーだった。浴びるようにアートを体感できる「リバーリトリート雅樂倶」、「スパ・バルナージュ」、そして「GO FOR KOGEI」すべてが非常に高いクオリティとセンスで展開されており、“食が豊かで物作りが盛んな北陸の都市”という印象を大幅に上書きすることとなった。北陸新幹線も通り、首都圏からのアクセスも非常に便利になった北陸・富山。国内旅の目的地のひとつとして、強くお勧めしたいし、個人的にもまた必ず行きたいと思う。(武井)