デスティネーション・ストア | HONEYEE.COM的個性派シティガイド
File 055:古本遊戯 流浪堂(東京都・学芸大学)
スマートフォンでどこにでも行った気になれる時代。むしろスマートフォン片手に「ここにしかない」を体感しに行ってみてはどうだろう。HONEYEE.COMが選んだ“目的地になる店”を紹介する連載「デスティネーション・ストア」。東急東横線 学芸大学駅の路地の
高架下に続々と新たなお店がオープンしてるのを知っているだろうか? 学芸大学の路地裏で22年にわたって営業を続けてきたが、2022年に建物の老朽化により一時休業した老舗古本屋「古本遊戯 流浪堂」が、この高架下に再び戻ってきた。
Text Takaaki Miyake
オープンは遡ること24年前
高架下に続々と新たなお店がオープンしている学芸大学駅周辺。飲食店などが軒を連ねるその中で、一際強いカルチャー色を放つのが、今回の「古本遊戯 流浪堂」だ。一度耳にしただけで覚えてしまいそうな店名だが、店主の二見彰さんが流浪をしてきた経歴を聞くと不思議と納得してしまう。
10〜20代前半の頃は真剣にプロのミュージシャンを目指し、インターネットが普及していない時代にエアメールでカセットを送っては海外での活動を目指したという。遂にはイギリスで国内ツアーまでをも敢行したが、ある時からズレが生じたことでバンドは解散。それまでは本とほぼ縁のなかった二見さんが、その後古本の世界に足を踏み入れたのは音楽業界の先輩がきっかけだった。
「『ふらふらしてるなら一緒に働かない?』と先輩に誘われて、気軽に始めたのが古本屋のアルバイトだったんです。古本屋に入ったことすらなかったのに、いざ仕事をしてみると意外に面白くて」
そのお店は古本以外にも映画のポスターやフィギュアなど、いわゆるサブカルの集合体のような店だったと教えてくれた。
「いわゆる神保町にあるような古書を取り扱う書店だったら、早々に辞めていたと思います。自分の心惹かれるものが多くて、さらに自由さがあったから」
この店で4年ほどノウハウを積み、せっかくなら独立という想いから馴染みの書店を“脱退”し、2000年に学芸大学の地で“ソロデビュー”を果たした。
長い月日が生み出す“らしさ”
その後近くの路地にお店を構えていた「古本遊戯 流浪堂」だが、建物の老朽化により一度は休業を余儀なくされた。2年の時を経てこの新たな場所で再始動した二見さんが、改めて気付いた古本や書店の面白さを聞くことができた。
「バンドではドラムを叩いていたのですが、書店の棚作りってどこか音楽制作と似た様な感覚があるんです」
そう語る二見さんが編集をする店内の棚には、ファッション誌のアーカイブをはじめアートブックや写真集、音楽や映画や、絵本や落語、キャバレーやストリップ関連の書籍が並ぶ。
これらは当然お店の哲学を反映した選書かと思いきや、その多くは買取で持ち込まれたものだという。
「うちは基本的に買取がメインなので、本当にお客さんのセンスに助けられていると思います。だけど20年以上もお店をやっているので、持ち込んでくれる人も『ここなら合いそう』と思ってくれているのかも知れませんね」
市場から本を選んで仕入れずとも、そのラインナップに統一感が生まれている店内。それは古本屋として長年続けてきたからこそ、脈々と築き上げられた空気感や風格も作用しているのかもしれない。
日陰な本、小さな声を送り出す
その中でも「古本遊戯 流浪堂」が特に大切にしているのは、新刊書店でも並ばないような“日陰な本”を読んでもらうということだ。
「本が必ずしも生活に必要だとか、読んでいる人の方が偉いなんてことは絶対にないですが、本で救われることだってあると思うんです。決して多くの人から評価されていない本でも、ある人にとってはそんな一冊になるかもしれません。
だから他の場所では届きにくいような“小さな声”が、一人でも多くの人に届いてくれれば良いなと思いますね」
その想いは様々な本が同居する棚の中で棚差しや平積み、面置きを組み合わせながら立体感を生み出すことで、一冊一冊が目を引くディスプレイにも反映されているに違いない。
街の灯火に
近年では夜遅くまで営業する書店も少なくなってきたが、「古本遊戯 流浪堂」は平日22:00、日祝日は21:00までオープンしており、学芸大学でも平日は人通りが少なくなる高架線において、暗闇に明かりを灯す役割も担っている
「最近は偶然通りかかった人が店内に足を運んでくれる機会が増えてきました。夜遅くまでの営業は昔からですが、こういった場所に移転したからには、街の人に何かしら還元したいという思いが余計に強くなりました。
本を購入いただければ一番ですが、そうでなくとも仕事帰りにふらっと立ち寄ってもらって少し会話をしたり、一息付いてもらえたりするだけでも良いんです」
再オープンにあたって本棚を一部可動式に、店内のスペースをより自由に活用できるようになった「古本遊戯 流浪堂」では、つい先日演劇を開催。今後は映画の上映や落語なども予定しているらしく、本の世界とリンクするイベントも楽しみにしたい。
DESTINATION STORES | File 55
フルホンユウギ ルロウドウ | 古本遊戯 流浪堂
東京都目黒区碑文谷6-7-22
営業時間:12:00〜22:00(平日) / 12:00〜21:00(日祝)
定休日:木曜日
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