デスティネーション・ストア | HONEYEE.COM的個性派シティガイド 
File 057：Manuque（東京都・豪徳寺）

スマートフォンでどこにでも行った気になれる時代。むしろスマートフォン片手に「ここにしかない」を体感しに行ってみてはどうだろう。HONEYEE.COMが選んだ“目的地になる店”を紹介する連載「デスティネーション・ストア」。File 057に登場するのは世田谷区・豪徳寺で100年以上にわたり、地域の生活を支え続けてきた「豪徳寺市場」内でライフスタイルショップとして営む「manuque」。

Text Takaaki Miyake

鮮魚店からのバトンを繋ぐ

小田急線の豪徳寺駅周辺には地名の由来であり、招き猫でも有名な豪徳寺の参道だった名残から、今でも商店街を中心に様々なお店が軒を連ね、コーヒーショップやベーカリー、カレー屋などの飲食店などからも個性がしっかりと感じられる。

世田谷線・山下駅も交差するそんな街で、ローカルなマーケットとして愛され続けてきたアーケード街の「豪徳寺市場」に店を構えるのが、Manufacture（マニュファクチャー）とBoutique（ブティック）を掛け合わせた、器を中心とした生活雑貨をセレクトするショップ「manuque（マヌーク）」だ。

「manuque」は、元々は市場の代表が創業した魚屋だった場所で、現在は4つに区画が分けられた一角に2022年にオープン。最近では都内だけでなく県外からもここを目がけて来る人も珍しくないと言うが、そこにはオーナーの 荒谷由香子 さんが長年“店作り”と向き合ってきたからかもしれない。

わずか60日での開店準備

昔から小売りに興味を抱いていた荒谷さんは、まだ iPhone がリリースされる前の Apple で自身のキャリアをスタートさせた。意外な出発地のように聞こえるが、この過去の経験がゼロからのお店作りへ着実につながっていたという。

「IT業界のことを当時はあまり分かっていなかったのですが、製品だけではなく目にする広告なんかも含めてブランドとして気になる存在だったんです。リテールという面ではやりたいことでしたし、とにかく飛び込んでみようと」

今でこそ多くの人で賑わう Apple の店舗もその頃、アナログな体験に注力しており、音楽イベントを店内で開催するなど積極的な動きを見せていた。

店舗で企画やオペレーションなどを行うにつれて、漠然と独立という次のステップが芽生えたことで一度はライフスタイルセレクトショップでも経験を積んだ。

しかし最大のきっかけは何気なく引っ越した豪徳寺で目に入った、現在のスペースとの偶然の出会いだった。

「引っ越しから3ヶ月でこの場所を見つけて、契約してから2ヶ月でオープンまで漕ぎ着けました。不安はありましたがこの辺りは同世代の店主が営む、インディペンデントなお店が多いので、そういった土地柄や環境からも後押しされました」

ここでしか買えないを体現

「manuque」で大切にしている一つが“ここでしか買えないこと”だ。店内にはアメリカや香港、国内各地の作家モノやデッドストックの骨董など、文化や時代の異なる器が集まり、そのほとんどがこの豪徳寺に足を運ばなければ手に入らない。

「例えば Annie Raysse Pottery や Scolatao など、海外アーティストでも国内では『Manuque』だけの取り扱いです。これは『各停の駅にどうやったら来てもらえるか』を考えたときに、ありふれている人気のモノを選ぶよりも、他のお店にないモノの方が来てくれる方にも喜んでもらえると思ったからです」

人気のエプロンブランド DRESSSEN（ドレスセン）が常設で店内に並ぶのも関東唯一のため、やはり目的地として訪れる人も多いとのこと。

決して器だけにこだわっているわけではなく、ライフスタイルショップとしてジュエリーやキャンドル、キッチン用品などセレクトには余白がある。もちろん歴史やバックグラウンド、語りたいストーリーがある作り手やブランドのみが、荒谷さんの審美眼によって厳選されている。

作家と飲食店の架け橋に

今後も「manuque」が目指すのは、都心にはない落ち着いてゆっくり買い物を楽しんでもらえる空間作り。その一つとして昨年頃から個展やポップアップを不定期で開催し、来年以降もギャラリーのような側面はより見せていくそうだ。

加えて作家と飲食店とを結ぶ架け橋としての役割も担っていきたいという。

「以前、代官山のバー『Sputnik』のオーナーさんが来店されて、Annie Raysse Pottery の作品を気に入ってくれました。そこで姉妹店の『laika』のために、作家と一緒に特注のデザート用プレートを作らせていただいたんです。

作家もすごく喜んでいて、個人的にもとても嬉しい瞬間でした。この先もそういった活動を継続していき、それもいつか『manuque』の強みにしていければ良いなと思います」

もしかすると「manuque」が手がけた器と、お気に入りのレストランやカフェで出会う日がいつかくるかもしれない。

DESTINATION STORES | File 57
マヌーク | Manuque
東京都世田谷区豪徳寺1-22-5 市場内
営業時間：13:00〜18:00
定休日：月・水・木曜日
https://www.instagram.com/manuque_tokyo/