JOURNALIST’S EYE #2 DAIRIKU
2022.02.22

次の御三家の座を狙う、20代のジャパン・ブランド5選




Text Kaijiro Masuda(Fashion Journalist)


コロナ禍前は年間250本以上のファッションショーを取材し、数えきれないほどの展示会を長年にわたって見続けているファッションジャーナリストの増田海治郎。彼が「いま知っておくべき日本ブランド」をピックアップしてお届けする不定期連載。「次の御三家の座を狙う、20代のジャパン・ブランド」について5回にわたってお届けする。今回はDAIRIKU(ダイリク)。

大阪古着カルチャーが産んだ第三世代のトップランナー

岡本大陸の作る服の存在を最初に知ったのはパリだ。滅多に言葉を交わさない某編集長がバックに大きなロゴの入ったツイードのステンカラーコートを着ていて、ムカつくけどイケてんなーって思った。耳をダンボにしていたら「大阪バンタンの学生のブランド」と聞こえてきて、半年後に岡本が学生時代に作った服だと知った。

それからdoubletでアシスタントをしていた子が独立したと聞いて、SUGARHILLの林くんと一緒にインタビューしたのが3年半前。以後、展示会ではなくプレスプレビューという形にはなるけれど、彼の歩みをこっそり見てきた。DAIRIKUが一般に知られるようになったキッカケは、2018AWのアメリカの星条旗をパロったフーディだろう。軽やかで風刺が効いた新世代が作るアメカジが印象的で、自分も買おうかずいぶん迷った記憶がある。

林のアメカジの特徴がヴィンテージ&ジェンダーレスだとしたら、岡本のアメカジは洒落が効いていてとても軽やかだ。幼少の頃から父親が集めていたアメリカンフィギュアと数多の映画を見て育ち、高校時代には奈良から大阪のアメリカ村の古着屋に通い詰めた。大阪の古着カルチャーから生まれたデザイナーは数多くいるが、岡本は第三世代のトップランナーだと個人的に捉えている。EVIS の山根英彦、Denime(現RESOLUTE)の林芳亨、FULLCOUNTの辻田幹晴らの第一世代、TALKING ABOUT THE ABSTRACTIONの市原直紀、inkの岡田昌幸、HEALTHの田上拓哉(現Essential Storeのオーナー)らの第二世代の系譜を受け継ぐ……。

毎シーズンひとつの映画を元にコレクションを作り上げる手法は、少し安易と捉える向きもあるかもしれない。でも、世界中の人々の青春や思い出を刺激するという点でとても理にかなっているし、商業的にも大きな成功を収める可能性を秘めている。共感する可能性がある頭数がハンパない訳だから。これが完コピになってしまうと現在ファッション界で嵐のように吹き荒れている“文化の盗用問題”の俎上に上ってしまう可能性もあるが、彼の場合はあくまでそこから受けたヒントを自分流に咀嚼して柔らかく着地させている。そこがとても上手で、冷静かつ客観的な視点を感じるのだ。

2022SSのテーマは“Boy meets girl”で、着想源の映画はジム・ジャームッシュ監督の1989年の作品「ミステリー・トレイン」。永瀬正敏と工藤夕貴が出演したあの名作映画のシーンを、愛情を持って楽しみながら服に落とし込んでいる。岡本と同世代はもちろん、むしろ上の世代の方が夢中になってしまうシーズンかもしれない。

そしてもうひとつ忘れてはならないのは、写真家の小見山峻、スタイリストの渕上寛、ヘアメイクの長澤隆太郎のデビュー以来のコンビによるビジュアルのクオリティの高さだ。この世界観がショーになれば、必ずやランウェイ映えするに違いないし、きっとそうなるだろう。だから3月に予定している東コレ初陣は、伝説の始まりになる可能性もあると思っている。あいにく東京ファッションアワードのショー会場は、渋谷ヒカリエか表参道ヒルズからしか選べない規定がある。彼的には間違いなく最初のショーは映画館でやりたいと思っているだろう。決まり事は大事だが、ファッションと相性の悪いものだと常々思う。彼のアメカジのようにファッションウィークの主催者も頭を柔らかくして良く考えてみてほしい。飯田橋のギンレイホールとかなら最高だよなー、って僕は今から夢想している。

Designer Profile

岡本大陸。1994年、奈良県出身。バンタンデザイン研究所ファッションデザイン学科在学中にDAIRIKUを立ち上げ、卒業後の2018SSから本格的にスタート。2016年に「Asia Fashion Collection」のグランプリを受賞し、2017年秋冬コレクションをニューヨーク・ファッションウィークで発表。2021年に東京ファッションアワードを受賞。

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