南貴之という多面体 前編
2022.06.15

Graphpaper、FreshService にとどまらないクリエイティブディレクターを知るための6つの側面




Edit&Text by Yukihisa Takei(HONEYEE.COM)
Photo by Kiyotaka Hatanaka
Movie Directed by Ryoji Kamiyama


実に多面的な人だ。東京の人気ブランドでありショップのGraphpaperやFreshServiceのディレクターでありながら、数々のファッションブランドをクライアントに持つalpha PRを率い、大きな商業施設のフロアプロデュースも請け負う。

自身が手がけるブランドはもちろんのこと、外部ブランドのディレクションや内装デザインでも多数の実績を持ち、その目利きによって国内外のさまざまなモノを買い付けてくるバイヤーでもある。そして自ら発見した作家を“ギャラリー白紙”を通じて世に広めるキュレーターとしても活動する。

八面六臂という言葉がふさわしい、南貴之というクリエイターとは何者なのか? その多面体に6つの側面から迫る。インタビューはalpha. co.ltd内に南が作った“喫茶 談話室”で行われた。

1.alpha.co.ltd 、alpha PR代表としての南貴之

東京・神宮前には南貴之の拠点であり、自身が代表を務めるalpha.co.ltdのオフィスと、事業のひとつalpha PRのショールームがある。現在alpha PRが現在取り扱うのは約30ブランド。その多くはマーケットでも高い注目を集めるブランドたちだ。PRディレクターとしての南貴之の考え方。

― PRディレクターとしての南さんはどのように形成されていったのですか?

: 20歳の頃は美容室で働いて、その後H.P.France系列の会社に入りました。24歳の時に、キャットストリートのビル用に企画を出せばお店を出せるという社内公募があって、それが通って作ったのがセレクトショップのCANNABIS。そこでPR的な仕事も始めましたが、本格的になったのはフリーになり1LDKというショップのディレクターをやっていた時ですね。その後1LDKのディレクターを終え、ブランドさんからPRを頼まれたので、ちゃんとした場所が必要となって借りたのが、今のGraphpaper Aoyamaがある原宿の路地奥のビルです。

― alpha PRで取り扱うブランドの多くは注目されているし、スタイリストたちからも信頼されている印象を受けます。南さんの中にはどんな基準があるのですか。

: クオリティとクリエイションのバランスが取れているかの部分を僕は一番気にします。クオリティだけ良くてもクリエイティブなところがないと、推していけないんですよ。あとは僕が愛せるか愛せないか(笑)。自分があまり良くないと思っているのに、みんなに「良いですよ」とは言えないタイプだし、素晴らしいものをみんなに知ってもらいたい思いで始めたPR会社なので。それは僕がCANNABISなどで販売員をしていた経験も活きていると思います。

― PRとは言え、最終的にはエンドユーザーを見ている。

: そうです。PRって基本的にはB to Bですが、僕の場合はB to Cまで見るっていうのが最終的な目標。そのブランドの売り上げが作れなければ、僕らに支払うPR費用も出てこないですからね。

基準は“僕が愛せるか愛せないか”

― alpha PRにあるブランドの多くは、シンプルだけど素材が良質で、機能性も理に適っているものが多い気がします。

: ブランドを選んでいるのが僕だからそうなっているのかも知れないですけど、基本的には各ブランドには好き放題やって欲しいと思っているんです。こちらがコントロールせず、あくまでクライアントがやりたいことを、どれだけ薄めずに伝えられるかというのが僕らの仕事ですから。

― それぞれのブランドのクリエイティビティを重視するわけですね。

: うん、そうじゃないと面白くないですよ。それはうちのスタッフもみんなそう考えていると思います。

― 数々のブランドを見てきた南さんの中に、“当たるブランド”の法則などはありますか?

: それは俺が一番知りたいですって(笑)。

2. Graphpaperディレクターとしての南貴之

現在東京の人気ブランドのひとつとなっているGraphpaper。南貴之という人の名前は、このブランドを通じて知っている人も多いのではないだろうか。しかしそのブランドとしての成長の背景は意外なほど純粋で、意外なほど計画的なものではなかった。南貴之がGraphpaperを作った理由とその真意。

― Graphpaperは、セレクトショップのGraphpaperの「スタッフが着るユニフォーム」のようなものとしてスタートしましたよね。それが年々アイテムも増えて、今や人気ブランドの一つに。でも最初の頃の南さんは、あまりブランドを大きくする気持ちもなかった印象です。

: 全くなかったですね。ショップスタッフの服装を“無味無臭”にしたかったので、ユニフォームを着せて、誰でも店の空間の中の一つになれるかの実験をしただけというか。それが今でも販売しているショップコートでした。今でも定番の“シェフパンツ”もその一つです。

― そうしたものが増えて、結果的に卸先も増えて。

: そうですね。本当は「ブランド名なんて要らない。ナシにできないかな」と言って、PRチームとも喧嘩したんです(笑)。「ブランド名がないと広がるものも広がらない」と押し切られ、考えるのも面倒になってしまってブランド名もGraphpaperに。このせいで、「セレクトショップのオリジナルブランド」と誤解される原因になってしまったんですけど。

“毎シーズン違うものが出ることに、僕の中では抵抗があるんです”

― Graphpaperの服は、定番的な発想のものが多いですよね。シーズン性というより、継続アイテムが増えている印象です。

: そもそも毎シーズン違うものが出ることに、僕の中ではすごく抵抗があるんです。僕自身そんな毎回違う服を着ないし、気に入った服があればそればかり着るタイプだったので。例えばどこかのブランドのあるアイテムが気に入ってまた買いに行くと、「今シーズンはやっていないんです」とよく言われる。僕はそれが何でなんだろうと思ってて。男の人ってそんな毎シーズン服を変えるのかな、それって逆にダサくないかなと。

― 男ってそういう人多いですよね。分かります。

: だからGraphpaperでは継続品が多いんです。あとは産地や生地屋さん、工場さんのことを考えると、「ずっとやります」と言うと喜んでいただける。あと「セールをしない」という基本的な概念があるので、それも結びつきました。定番もだいぶアイテムが増えましたけど、これはメンズ的な考えだから出来ていることかも知れないですね。

“20世紀でファッションのデザインは出尽くしている”

― 定番品も細かくアップデートされていますよね。

: 家電などプロダクトのアップデート感覚に近いです。僕はデザイナーではなく、あくまで“ディレクター”なので、デザインをしている感覚は全くなくて。どちらかというと職人的な考え方なんです。「全く新しいものを作り出してやろう」というより、自分が「なんでこういうのが無いんだろう?」というものを作る。ブランドコンセプトにも書いているんですけど、20世紀でメンズファッションのデザインは出尽くしているので、それをどうやって編集していくかを考える作業というか。

― それは具体的に言うと?

: 都市に住んでいる中で一番機能的なのは何だろうというのが一つ。そして素材に対するリスペクト。僕は服の生地を作る人たちこそが真のクリエイターだと思っているんです。直接全部の産地を回らせてもらっているんですけど、その人たちが作った素晴らしい素材をどれだけ壊さずに、僕が思うシンプルな服にできるか。素材を活かすお寿司屋さん的な考え方ですね。

― お寿司屋さんは面白い喩えですね。

: 普通の人は「服を作る人=ファッションデザイナー」と思ってしまうかも知れないけど、僕はずっとクリエイティブディレクションをやっているだけでそれが服になっただけ。空間を作る、お店を作る、PRをする、それぞれやり方は何も変わっていないんです。それがアウトプットされているのが服だというだけで。

3.FreshService ディレクターとしての南貴之

Graphpaperとはまた異なる魅力を持つレーベルがFreshServiceだ。南貴之が厳選したマスプロダクトを中心にした日用品類をFreshService流にアレンジしたアイテムや、ユニフォームの様なデイリーウェアがラインナップしている。

“高くもないけど大量生産されているものの良さ”もある

― FreshServiceは今ではブランド化していますが、最初は“移動式ポップアップ”のようなコンセプトでしたよね。

: 僕が独立した最初の仕事です。ザ・コンランショップさんからポップアップをやってくれと頼まれまして、「自分が一番フレッシュだと思うものを出すセレクト型ポップアップショプ」をやったら面白いかなと考えて名前もFreshServiceにしました。架空の運送会社がパッキンに物を入れて出店して、商品が残ったらパッキンに入れて帰ってくるようなイメージでした。でもその都度色んなブランドさんから物を集めるのが大変になってきて、僕が回らなくなってしまった。

― 毎回ポップアップだと準備も大変ですよね。

: それをどう変化させていくかと考えて、“道具”というコンセプトにたどり着きました。男の人の服って、ある側面では道具みたいなものじゃないですか。男は基本的に道具好きだし。だから僕の中には、Graphpaperのように上質な物をシンプルに作るということと同時に、「高くもないけど大量生産されているものの良さ」も好きで。それがFreshServiceの根本にあります。

― 具体的に物のチョイスはどのようにされているのですか?

: 例えばタオルだったら、「なぜカーキ色のタオルってないのかな」とかがずっと疑問に思っていたので、カーキでタオルを作ったり。そんな個人的な感覚が大きいですかね。スタッキングのボックスもそう。箱物が好きでロットデカすぎて大変だったこともありましたけど(笑)。

後編に続きます)