ファッションプロダクトのストーリーやその裏側にあるあれやこれやを、少しだけ厳しい目線と深いプロダクト愛でお届けする好評連載企画。雑誌『PRODISM』編集長の渡邊敦男と『HONEYEE.COM』編集長の武井幸久、そしてスタイリストの来田拓也が毎回テーマを決めてピックアップしたモノについて縦横無尽に語ります。今回も5つのブランドから気になる最旬アイテムをピックアップ!
Edit&Text : Atsuo Watanabe(PRODISM)&Yukihisa Takei(HONEYEE.COM)
Styling : Takuya Raita
Photo : Kengo Shimizu
UNDERCOVER × PSYCHO
ジャガード織コート
“まさに職人技を垣間見られるプロダクトです”(渡邊)

来田拓也(以下 R):(アルフレッド・)ヒッチコックの『PSYCHO』とのコラボレーションで、映画のワンシーンをジャガード織で再現したコートです。
武井幸久(以下 T):UNDERCOVERは映画テーマ多いよね、数シーズン前には『時計じかけのオレンジ』でコレクションを発表してたし。
渡邊敦男(以下 W):写真素材をジャガードで表現しているのは、実は相当な技術がないとできないすごいことなんですよ。プリントじゃなくて織でやってるっていうまさに職人技を垣間見られるプロダクトです。
R:よく見るとすごい細かいのが分かりますね、ここまで絵みたいに表現できるんだ。
W:総柄でコレはやアートピースに近い。そういう意味でも物欲は高まる。ベースがウールじゃなくてデニムなのも面白いなと。前面じゃなくて背面に持ってきたところもUNDERCOVERらしさを感じる。
T:“背中で語る”ってことだよね。
映画『PSYCHO』とコラボレーションし、そのワンシーンをデニムのジャガード織りで再現したUNDERCOVERのコート。高度な技術を使いながら背面全体を織りで仕上げた逸品。
UNDERCOVER
デニムジャガードステンカラージャケット ¥104,500(アンダーカバー)
TEL:03-5778-4805
© Universal City Studios LLC. All Rights Reserved.
visvim
泥染ベスト
“visvimの洋服が泥に浸かっている映像は衝撃でした”(来田)

W:泥染めの独特な風合いが唯一無二。
T:この微妙な色味へのこだわりが泥染に向かわせたんでしょうね。
W:ダウンがパンパンじゃなくて少し抜いてる感じも良い。
R:実際に作られてる動画を観たんですが、visvimの洋服が泥に浸かってるのは衝撃でした(笑)。
T:製品前に生地を染めてるってことですよね?
R:いや、もう製品になった状態で職人の方が一つ一つ染めています。シルエットは少しビッグシルエットですね。
W:ボタンの大きさとかのディテールも含めてだけど、こういう洋服の作り方をしたら他のブランドは敵わないよね。
R:値段は決して買い安くはないですけど、visvimはどのアイテムを見てもカッコいいです。
T:“やれた”魅力みたいなのも感じる。
W:古着っぽい良さだよね。それを新品で買えるっていうのが、ファンにはたまらないんだと思う。
visvimによるダウンベストは、製品泥染によって古着のような絶妙なやれ具合に。しなやかでソフトな張り感を持った高密度ナイロン生地を使用し、ゆったりとした大きめのシルエット。
visvim
WALKER DOWN VEST ¥132,000(F.I.L. TOKYO)
TEL:03-5778-3259
JUNYA WATANABE MAN × Jay Kay
サラペジャケット
“あのショー映像はもう20回は観ました”(武井)

W:今シーズンのメンズのベストプロダクトの一つじゃない? これだけコラボレーションが乱立する中で、ジェイ・ケイと一緒にやるってストレートに上手いなと。
T:デジタルだから成立したショーの見せ方だったと思います。あの空間をフィジカルで再現しても上手く伝わらない気がするな。音楽はもちろん、画角とか全部寄せてやった潔さが、見てるこっちも気持ちよかった。
R:ちなみにこのサラペ柄ってジェイ・ケイは結構着てたんですか?
T:ファーストアルバムの『Emergency on Planet Earth』の頃から着てたよ。
W:民族衣装みたいなのばっかり着てましたよね?
T:MVが最新のクリエイションが見れる存在だった当時でも、『Virtual Insanity』はマスターピース的な一曲。かなり好きだったから個人的ノスタルジーもあって、あのショー映像は発表されてから20回は観ました(笑)。
R:この企画で武井さんのその愛はぜひ伝えた方が良いですね(笑)。
T:けど唯一「足元はadidas出して欲しかった」って思っちゃった。ジェイ・ケイといえばadidasだもん。
W:これでJUNYA WATANABEを知らない人が買うかもしれないし、若い世代がジャミロクワイを知るきっかけになったかもね。そういう意味でもファッションブランドとミュージシャンがコラボする意義があるよ。
R:過去の文脈とかを今こうやって聞くと、色々な意味で究極のコラボレーションな気がします。
T:“オマージュ”とかじゃなく、ちゃんと本人とオフィシャルでコラボしたのも良いよね。
W:そこがCOMME des GARÇONSの凄さ。
T:今シーズンはコートを買うためにバジェットを確保しました(笑)。
R:柄の発色と色のバランスが良いですよね。
T:おそらく(渡辺)淳弥さんもジャミロクワイがお好きなんだと思うけど、楽しみながら作ったのが伝わってくるコレクションでした。
W:世界がまだ不安定なタイミングで、あの映像を作ったのはファッションってこういうことだなって。文句なしの200点です。
R:この企画で過去最高に盛り上がりましたね(笑)。
JUNYA WATANABE MANがジャミロクアイのジェイ・ケイとコラボレーションしたシーズンの一着。さらぺなどジェイ・ケイ本人が当時よく着用していたイメージを取り入れている。デジタルで発表した「Virtal Insanity」のMVの世界観を踏襲したショー映像は大きな話題に。未見の人は必見。
JUNYA WATANABE MAN × Jay Kay
ウールチェック メキシカン サラペ ジャケット ¥132,000(COMME des GARÇONS)
TEL:03-3486-7611
TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.
リバースオッドベスト&リバースヘンリーネックシャツ
“複雑だけど着やすそうな服が多かった”(渡邉)

W:スウェットやニットとかも含めて、秋冬シーズンは全体的に良かったよね。
R:今季のTAKAHIROMIYASHITATheSoloist.は、かなり勢いを感じました。
W:宮下(貴裕)くんのやりたいことを素直に具体化した印象。複雑だけど着やすそうな服が多かったよね。
T:あのカラフルなダッフルコートとかも印象的だったな。
R:そんな中で今回ピックアップしたのは、シーズンのキーアイテムである前後が逆になったデザインのもので、今の時代へのアンチテーゼらしいです。
W:過去数シーズンは着るハードルが高そうなアイテムが多かったけど、今回はトータルのコーディネートでも組み合わせやすそうな洋服が目立った。
T:単体だと少しピンとこないけど、この合わせによって完成度が上がってる感じはあるね。
TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.のヘンリーネックシャツとダブルジップリバースオッドベストは、通常の洋服のフロントとバックを真逆にしたデザイン。斜めに入ったジップ使いも効いている。それぞれ別物だが、セットにすることで統一感のある印象に。
TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.
リバースダブルジップヘンリーネックシャツ ¥66,990、ダブルジップリバースオッドベスト ¥87,890(TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.AOYAMA)
TEL:03-6805-1989
sacai × PORTER
コラボレーションシリーズバッグ
“ステッチワークに少し女性らしさも感じる”(武井)

T:ミリタリーっぽさの中にもステッチワークとかに少し女性らしさも感じるね。男性的過ぎないというか。
W:PORTERとの組み合わせでベージュって新鮮だね。作りはミルスペックっぽいけど。
R:このベージュってなかなか見ない色味ですよね。リュックはパーツが取り外しできるので、使い勝手も良さそうかなと。
W:取り外しできるアイテムって絶対に付けたままでいたい派かも。
T:そこに財布とか入れてて失くしたら嫌だしな(笑)。
W:ショルダーも良いけど、この巾着もかわいいね。
R:巾着は新モデルみたいです。
T:価格は sacai × PORTERなら仕方ないって感じか。それにしてもコマーシャルなバッグを作らずに、バッグの専門ブランドとクリエイションをしてるのが素晴らしいな。
W:それもそうだしsacaiは、コラボレーションの持っていき方とブランディングがずば抜けてる。コレクションは自分たちでしっかり作りつつも、結構な数のコラボレーションを手がけてるもんね。良い意味で垣根がないって言うか。
R:デザイナーが女性の方だからか、無骨すぎずに品がありますよね。
T:そこがsacaiらしさだろうね。
sacaiとPORTERによるコラボレーションバッグは、定番のナイロン生地をグロス感のあるベージュにアレンジして登場。ミルスペック的なディティールを使いながらも、ユニセックスで使える雰囲気にしているのが絶妙。
sacai × PORTER
バックパック ¥126,500、バムバッグ ¥61,600、ドローストリングバッグ ¥48,400(サカイ)
TEL:03-6418-5977

(左から) 渡邊敦男(『PRODISM』編集長)、スタイリスト 来田拓也、武井幸久(HONEYEE.COM)
渡邊敦男(『PRODISM』編集長)
1973年生まれ。『Asayan』、『Huge』などの編集を経てフリーランスに転身。2013年にプロダクトにフォーカスした雑誌『PRODISM』を創刊し、現在も編集長として活動中。メンズファッション、スニーカー、ストリートウェアに通じており、独自の美学を持つ。
スタイリスト 来田拓也
1986年生まれ。甲斐弘之氏に師事し、2012年に独立。メンズファッション誌を中心に活躍。トレンドを敏感に取り入れたプロダクトスタイリングにも定評がある。現在アシスタント募集中。
武井幸久(HONEYEE.COM)
1972年生まれ。雑誌『EYESCREAM』の編集者を経てHONEYEE.COMの編集長に就任しつつ1年で退任。フリーの編集者、クリエイティブディレクターとしてブランドサイトやメディアの立ち上げに携わり、2021年秋にHONEYEE.COM編集長に出戻り就任。