ゴルフブランド 8G SHOOTのプロデュース、独自の「人生攻略法」を語る
Edit & Text by Yukihisa Takei(HONEYEE.COM)
Interview Portraits by Kengo Shimizu
Hair & Make-Up by Shuji Sato
日本を代表する俳優の一人であるだけでなく、その自然体の発言やライフスタイルでも常に注目を集めている窪塚洋介。モデルとしても長年活動し、ファッション界、ストリートのシーンにおいても多くの友人がいることでも知られているが、その窪塚が2023年の夏にゴルフアパレルブランド 8G SHOOT(エイジシュート)をプロデュースしたことはご存じだろうか。
2022年にプライベートで始めたゴルフにどっぷりとハマり、その延長の自然な流れでスタートしたというこのブランドは、ここ数年で大きく変化を遂げたゴルフ関連アパレルにまた新しい風を送り込んでいる。
今回HONEYEE.COMでは、窪塚をそこまで惹きつけたゴルフの魅力、自身初となるアパレルのプロデュースまでに至った経緯、そして役者、人生観にまで踏み込んで話を聞いた。
窪塚洋介は如何にゴルフを愛するようになったか。窪塚洋介、ゴルフへの“異常な愛情”。
まったく視界に入っていなかったゴルフ
LOGO PATTERN QUILTING PULLOVER ¥30,800 / LOGO PATTERN QUILTING PANTS ¥29,700(ともに8G SHOOT)
― コロナ禍を境に、ファッションやストリート界隈の人たちもゴルフに熱中するようになりましたが、窪塚さんはそれまでどのようにゴルフを見ていたのですか?
窪塚 : たとえば(スタイリストの)熊谷隆志さんとか、僕に近い人たちもゴルフを始めていたのはぼんやり見ていましたけど、そもそもゴルフに興味もなかったし、むしろ気にもならない存在という感じでしたね。子供の頃はダサいと思っていたし。
― そこからゴルフを始めた最初のきっかけは何だったのですか。
窪塚 : ある日仲間の一人から「ゴルフの打ちっ放しに付いて来てよ」と言われたんですが、興味もないし、「イヤだよ」って最初断ったんですね。でも強引に連れて行かれて。練習場でもずっとスマホをいじっていたのですが、「洋介もちょっと打ってみれば?」と言われてやってみたら、一発目で「パチーン!」と。仲間も「……あれ? もう一回打ってみ?」って、また打ったら同じように気持ちよく当たって。「これは天才かもしれない」と言われて、乗せられるように(笑)始めたんですよね。
― いきなりそれはハマりますね。
窪塚 : 実際に始めたらそれこそ熊谷さんにも色んな人、たとえば今使っているゴルフクラブのCallaway(キャロウェイ)の人も紹介してくれたりして、ガーっと世界を広げてくれました。どんどんゴルフが楽しくなる後押しをしてくれたので、本当に感謝しています。
― 今は相当入れ込んでやっているとお聞きしました。
窪塚 : 2年連続で年間80ラウンドくらいしています。だからもう4、5日に1回ペースですよね。でも全然上手くならない。
“俯瞰して自分を見るゴルフは、役者の仕事に通じる”
― そこまで窪塚さんを惹きつけたものは何だったのでしょう。
窪塚 : 色々といいことずくめなんですよ。止まっている球にクラブを当てるのがこんなに難しいの?ってくらい難易度が高くて、それがスポーツとして面白い。もちろんマナーはあるけど、バカ話をしながら仲間と楽しくコースを回れる。そのメンバーがライバルにもなる。あとは作りものではあるけど、やっぱり自然を感じるんですよ。風も意識するし、空の高さだったり雲の低さだったり。もっと山奥のコースに行けば自然を感じられる場所もたくさんある。そして早起きする、酒の量も減る、僕にはいいことずくめ(笑)。あとは死ぬまで出来るスポーツだし。
― 役者としての部分でも何かメリットを感じることはありますか?
窪塚 : 役者的に言うと、“内観”するみたいな。ゴルフって「再現性のスポーツ」と言われるのですが、自分の身体や頭の中がどうなっているか、どの位置にあるかをどこか俯瞰で見ていないと再現性が出せないんですよ。その行為って役者の行為にも似てて。だから役者さんはこんなにゴルフする人が多いんだって思いましたね。僕はずっと映画や本が好きでしたけど、それって趣味と言えるのかな?と思っていた部分があって。今は「趣味はゴルフ」って言えるようになったし、40歳過ぎてこんなに夢中になれることに出会えたのもすごく嬉しかったですね。
8G SHOOTの始まり
― 8G SHOOTはどのように始まったのですか?
窪塚 : 仲間の一人が、ゴルフにハマった僕に「一緒にゴルフブランドやろうよ」と言ってくれたんです。そいつは30年近くアパレルの裏方をやっているので、ファッションを熟知していて、中国に工場も持っているし、彼自身も長年ゴルフをやっていて。いまゴルフにどんな服が求められているかも分かるし、生地のことも分かる。その仲間のデザイナーも僕が思うにすごい天才肌で。基本その3人で、お互いのことも尊重しながらやっているので、いい仲間に巡り会えたなと思います。
― 窪塚さんが自分のブランドをやるというのは、今回が始めてですよね。
窪塚 : そうなんですけど、僕はあくまでプロデューサー兼アンバサダー的な立ち位置で、株を持ったりお金を出しているわけでもないので、そういう意味ではまだ自分のブランドはやっていない、ということになります。
“自分が気持ちいい素材使い”
― ブランドを始めるにあたり、どんなことを決めてスタートしたのですか?
窪塚 : それこそ熊谷さんのブランド(TANGRAM)とか、大阪のCLUBHAUS(※ ゴルフショップでありブランド。日本でファッションとゴルフを結びつけた存在として知られている)とか、ストリートのイケてる人たちが始めたブランドがすでにいっぱいあったので、ゴルフのイメージはもう変わっていたけど、その中で俺たちがやる意味は考えました。そこでこだわったのは、デザイン、素材、機能の三拍子が揃っていること、そして素材にはオーガニックコットンやオーガニックヘンプ、リサイクル素材を積極的に使って行こうと。
― それは近年のSDGs的な流れを意識したということですか?
窪塚 : “社会的に”というよりは、自分の生理的にもそっちの方が気持ちいいし、ということですね。大企業ほど大量生産はしないけど、それでもまあたくさん作るわけじゃないですか。ひとつひとつは微々たるものでも、最終的にはみんなが集まって全員になるわけだから、俺たちはやって行こうよと。
SWITCH PATTERN LOGO HEAD COVER [UT用 ¥5,940 FW用 ¥6,270、1W用 ¥6,600](8G SHOOT)
― ゴルフウェアって、時に攻め過ぎたり、威圧的なデザインのものも結構ありますが、8G SHOOTにはそういうものを感じないですね。
窪塚 : シンプル過ぎるのもつまらないけど、派手過ぎちゃったらそれまでと同じだし、普段も着られて、ゴルフでも着られるものを作ろうとしています。もちろん3人でちゃんとメイクマネーはしたいけど、全員お金のために始めたことじゃないから、自分たちが着たいものにとことんこだわって、納得のいくものだけを作ろうと常々話をしています。
― 今後はコラボレーションなども考えているのですか?
窪塚 : そうですね。すでに走り出しているプロジェクトはいくつかあります。でもそれは例えばバッグだったり、何かの専門、何かのプロのブランドに限定はしていて、今のところ僕らと似た立ち位置のアパレルブランドとのコラボレーションはしないようにしています。今後はまだ分からないですけど。
窪塚イズムが生み出すオーガニックなゴルフ場が出来る?
SWEAT HOODIE ¥29.700 / LOGO CLASSIC BASEBALL-CAP ¥9,900 (ともに8G SHOOT)
― 8G SHOOTというブランド名も、Age Shoot(エイジシュート / 18ホールを自分の年齢以下でラウンドすること)から来ていて、そのネーミングもハッピーな感じを受けますね。
窪塚 : エイジシュートって、マジで並大抵のことでは実現できないんですよ。でもこのあいだ人に聞いたところでは、80代か90代のゴルファーの方が100回以上それを達成していると。実はそういう人って結構いるんですけど、みんなめっちゃ元気だし、上手い。それも健康あってのことなので、「元気なジジイになっていく」っていう希望的な意味もブランド名に込めているからかもしれないですね。
― 8G SHOOTは、“家族や仲間がハッピーになるようなオーガニックなゴルフ場を作りたい”というビジョンも掲げているんですよね。
窪塚 : 「ゆくゆくはゴルフ場のプロデュースもしたいよね」って話はしてて、それが最終目標だったんですけど、つい最近、それが叶えられそうなことになってるんですよ。僕の後輩で、長年ファンでいてくれている人なんですけど、その人がゴルフ場も持ってて、「一緒にやりたい」と言ってくれて。まさかブランド始めて半年でそんな人が出てくると思わなかったけど、僕の考えていることは理解してくれているので、そもそもいろんな説明も不要で。
― すごい展開の早さですね(笑)。具体的にはどういうプランになっているのですか?
窪塚 : 僕らが作りたかったのは、オーガニックのゴルフ場なんです。芝に農薬を使わない、裸足でラウンド出来る、そして昼飯にもオーガニックのフードが食べられる。芝にはたくさん農薬を使っているイメージがあると思いますけど、実は日本の食品の方が農薬も使っているし、添加物も多いんです。僕はそれって日本の自殺率やガン発症率にもリンクしていると思っているので、それをゴルフというものを通してメッセージできたらと考えています。今年中にというのは難しいかもしれないけど、今そのゴルフ場はすでに土壌改良も始めているので、近い将来に発表できるかもしれません。
LOGO PATTERN QUILTING PANTS ¥29,700(8G SHOOT)
― 窪塚さんは先日『窪塚洋介の人生攻略本』も出版されましたが、常に「腸活」を広めたり、無農薬米の日本酒(「福霧」)のアンバサダー、それからYouTubeチャンネル(「窪塚洋介の今をよくするTV」)などでも、いろんなフィールドに目を向けていますよね。そこが今回の8G SHOOTやゴルフ場のプロジェクトにも結びついているようにも見えます。その好奇心の原動力みたいなものはどこから来るのですか?
窪塚 : 本当に自分が好きなことをやっているだけなので、全部直感なんですよ。そこも「腸活」と結びついちゃうのですが(笑)、腸って直感を司っているんです。脳は思考、直感は脳。古代生物には腸器官だけあったアメーバみたいな原始生物がいて、それが進化してだんだん複雑になってきて僕らがいる。脳だけの生物や骨だけの生物はいなくて、腸だけの生き物はいた。そういう意味で腸はあらゆる“臓器の先輩”だと思うんですよ。この人は好き、嫌い、そこに行きたい、行きたくないっていう直感は全部腸から来ていると思うので、僕はできるだけ自分の腸に判断を委ねるようにしています。
― 面白いです。その説は何かブリッジするような原典もあるのですか?
窪塚 : 本や人から聞いた話もありますが、基本は自分の体験、体感から来ています。できるだけ腸の直感に従えば、ハッピーが循環するライフスタイルが送れると考えています。もちろん社会ではそれだけじゃ生きていけないし、イヤなこともある。でもイヤなこと含めて幸せの一部と考えるようにすれば、「No Rain, No Rainbow(ノーレイン、ノーレインボウ)」じゃないですけど、イヤなこともイヤじゃなくなると考えて生きてます。その辺のことも本に書いてあるので、ぜひ読んでいただけたら。
『窪塚洋介の人生攻略本』
窪塚洋介著 定価:1,700 円+税
ページ数:272P 発行:NORTH VILLAGE 発売:サンクチュアリ出版
8G SHOOT
https://www.8gshoot.com
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10 Questions to YOSUKE KUBOZUKA
- 最近のルーティンを教えてください。
家ではまず神棚の水を換えて、龍神祝詞(のりと)を奏上して1日を始めています。
どうしようもない二日酔いの時も、這って行ってやる(笑)。
そして寝る前には「今日も楽しかったです。ありがとうございます」と感謝して寝ます。
2. 最近やめたことはありますか?
テキーラ。あの酒は危ない。
やめる宣言をして、自分から進んで飲まないようにしています。
稀に飲んじゃったりしますけど(笑)。
3. 今、少し気になっている(興味を持っている)ことは?
サーフィンかな、もう一回始めたい。
そこに直接付随はしないけど、水泳は始めました。
4. もし一月くらいの長い休暇があったら何をする?
サモアとかフィジーとか、ポリネシアのあの辺にゆっくり行ってみたいです。
5. 今、旅をしてみたいところは?
ポリネシアもだけど、北欧は行きたい。
北欧諸国は福祉や社会保障も充実してて、幸福度がめちゃくちゃ高いみたいなので、それを感じてみたいです。
6. 次に住んでみたいところは?
今の大阪も気に入っているけど、ベタにハワイかな。
ハワイって海底からカウントするとハンパなく高い山なんです。
ハワイに行ったら感じる風とか、あのパワースポットな感じはそれが作用していると思う。
7. 今、日本の映画に必要なものとは?
それはバジェット(予算)じゃないですか(笑)。
やる気ある人もいるし、才能ある人ももちろんいるし、仕事は丁寧だし、一生懸命。
ハリウッドに行った時も現地の人は「本当に日本の俳優はすごい」と言ってくれたし、誇れるものはいっぱいある。
良いものを作らせるバジェットが必要だと思います。
8.自分が絶対にやらないことを教えてください。
人と比べないこと。自分が良いと思う人、悪いと思う人、そのどちらとも比べない。
あとは楽しもうとすることを諦めないこと。
なんだかんだ楽しかったね、って思えるように、マインドセットを持っていく努力をする。
9. 自由とは?
昔から言っているけど、「自分」とは「自由」の「分身」。
何でもありのところに放り出されたら、何が自由かも分からないけど、
「これはダメ」って言われるものの対比の中に自由が生まれると思います。
10. 幸せとは?
一番欲しいもの、気がつけばそこにあるもの、by Mr.Children(笑)。
きっと人生最期に思い出すのって、家族の団欒の風景だったり何気ない日のことだと思う。
何でもない日が一番幸せって思えるようにしたいと思って生きてます。
Profile
窪塚洋介 | Yosuke Kubozuka
1979年生まれ。神奈川県横須賀市出身。1995年に俳優デビュー。2001年公開映画「GO」で第25回日本アカデミー賞新人賞と史上最年少での最優秀主演男優賞を受賞。2017年に「Silence-沈黙-」(マーティン・スコセッシ監督)でハリウッドデビューを果たす。2006年から卍LINE(マンジライン)名義でレゲエDeejayとしての音楽活動を行い、執筆活動やトークショーでも活躍するなど、フィールドを広げている。2020年から「窪塚洋介の今をよくするTV」をYouTubeにて配信中。ゴルフアパレルブランド「8G SHOOT」のプロデュースも手がけるなど、活動の幅をさらに広げている。2024年1月12日に「窪塚洋介の人生攻略本」を発売。4月6日からWOWOWにて放送されるハリウッド共同制作オリジナルドラマ「TOKYO VICE」Season2に出演。窪塚洋介による陶芸作品の第2回目の個展“ TOGEI VICE ”も2月3日(土)より開催が決定。詳しくは下記INFOにて。
https://www.instagram.com/yosuke_kubozuka/
[INFORMATION]
窪塚洋介 陶展
“ TOGEI VICE ”
supported by丹文窯
会期:2023年2月3(土)〜 12(月)
時間:平日12:00-19:00 / 土日祝13:00-18:00
場所:ASITA_ROOM @asita_room
料金:入場無料(イベントは除く)
[編集後記]
窪塚さんには過去何度か取材させていただいているが、いつも自然体な受け答えの中に、ハッとさせられる言葉が出てくるのがたまらない。今回は窪塚さんによるゴルフブランドの取材ではあったが、そこは窪塚さんのこと、“単に好き”であるだけでなく、自分がなぜ好きなのかを見事に言語化できるし、単にひとつのスポーツに終わらせず、自分のこれまでの物事の捉え方やライフスタイルにリンクさせているのが実に窪塚さんらしいと感じた。(武井)