White Mountaineering 相澤陽介 のデザイン哲学
2024.01.31
White Mountaineering 相澤陽介 Triumph トライアンフ

英国バイク Triumphとのコラボレーションから、そのリアルなデザインライフまで

Edit&Text by Yukihisa Takei(HONEYEE.COM)
Interview Portraits by TAWARA(MagNese)

2024年1月25日(木)、英国を代表する歴史あるバイクメーカー、Triumph(トライアンフ)の新車発表会が都内で開催され、Triumph SPEED 400Scrambler 400Xという2型のモデルがお披露目された。Triumphは長い歴史があるだけでなく、クラシックなデザイン性にも根強いファンが多く、それが生んだバイクカルチャー、そしてファッション的観点からも熱い視線を注がれるメーカーである。これまで大型バイク中心のラインナップだったため手にできるユーザーは限られていたが、今回待望の400ccの登場ということもあり、集まったバイク系メディア陣の興奮は会場にも充満していた。

そんな中、一つの新しいプロジェクトも発表された。それがデザイナーの相澤陽介によるWhite Mountaineering。との協業企画発足のアナウンスだった。

White Mountaineering、そして相澤陽介といえば、近年UNIQLOMoncler Wなど多数の世界的ブランドとのコラボレーションや、ファッションデザイナーとしてBURTON THIRTEENLARDINI BY YOSUKEAIZAWAなど海外ブランドとの契約、ホテルプロジェクト「NOT A HOTEL KITAKARUIZAWA BASE」のデザイン、そして多摩美術東北芸術工科大学の客員教授を務め、サッカーJリーグの北海道コンサドーレ札幌の取締役兼ディレクターに就任するなど、ファッションデザイナー枠を超えた活動が常に話題となっている。

以前から純粋な疑問として感じていたのは、「なぜ相澤陽介にはこれほどの数のプロジェクトが舞い込んでくるのか」ということ、そして多忙を極める中でどうやってそれを成り立たせているのかということだった。今回の会場に参加した相澤に会いに行くと、そのデザイン哲学にまで踏み込んだ話を聞くことができた。

バイクとファッションの関係性

White Mountaineering 相澤陽介 Triumph トライアンフ

写真はコラボレーションモデルではなく通常のTriumph Scrambler 400X

― 今回のTriumphとの取り組みは意外でしたが、普段からバイクに乗っていたのでしょうか。

相澤 : 日常的に乗っていますね。僕はいま軽井沢にも家があって、週末はそこにいるのですが、軽井沢にはモトクロスとスクランブラーバイクの2台を置いていて東京の自宅にもイタリアブランドのスクランブラーがあります。Triumphは大型しかなかったので縁がなかったのですが、今回のモデルは中型免許の僕も乗れるのと、大好きなスクランブラー バイクだったので興味がありました

― 今回の発表では具体的なものは提示されませんでしたが、どのような構想になっているのですか。

相澤 : Triumphの方々とお話していたときにもそういう話になったのですが、日本においてバイクとファッションの距離って遠いなと思っていたんです。NEIGHBORHOOD滝沢(伸介)さんのように長年形にされているところもありますけど、一般的には実用性が重要視されるので我々がフィールドとしているファッションの世界とは異なる部分がありますし、特にメーカーから出される新型のバイクやウェアだと顕著だなと思っていました。

― バイクとファッションというと、どうしても一般的にはライダースジャケットくらいになってしまいますよね。

相澤 : 先ほどの発表会の中でも、「007でジェームスボンドが作品中でTriumphに乗ってる」みたいな話もありましたけど、ああいうスタイルって日本ではまずないじゃないですか。僕はイタリアの会社との仕事が多かったのですが、イタリアはバイク文化があるので、海沿いの道をみんなバイクで出勤していたりするんですよ。そのスタイルがめちゃくちゃカッコよくて。僕は新しいプロダクトが好きだし、だからもうちょっとファッションに興味のある人たちも映えるような服やバイクがあったらいいのになと以前から思っていました。

― ではウェアの開発も視野に?

相澤 : まだそこまでの段階ではないです。まずは1台、Scrambler 400Xをベースにカスタムして行きます。現在発表に向けてデザインを詰めている最中です。その先にいずれアパレルも作ることができたらいいなと思っています。

― そのカスタムバイクのデザインはどのようになるのですか?

相澤 : 僕のブランド(White Mountaineering)で言えば、BLKというラインのイメージが近いと思います。いわゆるバイクカルチャーとは外れた、ガジェットみたいな感じ。新しい家電だったり、インテリアだったりの感覚でバイクが成り立つと僕は面白いなと思っているんです。Triumph Scrambler 400Xは、デザイン的にはTriumphのクラシック感を引き継いでいるけど、中身に関しては最新なんです。だから今回のカスタムデザインも、エンジンとかシャーシとか、根本的なものは何も変えずにやっています。あくまでオフィシャルとして成り立つデザインを作りたいですね。

White Mountaineering 相澤陽介 Triumph トライアンフ

White Mountaineering BLK (¥154,000)

White Mountaineering 相澤陽介 Triumph トライアンフ

White Mountaineering BLK (¥82,500)

バイクでウェアの機能性をテストする

White Mountaineering 相澤陽介 Triumph トライアンフ

― バイクのカスタムデザインも、普段からバイクに乗っているからこそ考えられる部分もありそうですね。相澤さんはどのようにバイクを使っているのですか。

相澤 : 僕はWhite Mountaineeringでは昔からアウトドアとファッションというテーマを掲げて、パリファッションウィークなどでファッションとして表現しているのですが、僕はただそれっぽく作っているわけではなくて、実際にそれを着て、行って、使うようにしているんです。アウトドア=厳しい環境というのがあるわけですが、でも実際にエベレストで風速100メートルのところに行ったら、吹っ飛んじゃうし、ウェアのテストどころじゃなくなってしまう。

― 確かに。そこは厳しいですね。

相澤 : でもバイクなら時速100キロで走れるんですよ。実はウェアにとってエベレストと同じような過酷な環境を自ら疑似体験することできるわけです。例えばGORE-TEXのダウンジャケットを作るとして、どれくらいの防寒性があるんだろうって検証する時に、毎回山の上に行くことは難しいけど、バイクに乗って高速道路を走れば問題点も見えてくる。例えば襟の高さ、フードが邪魔だなとか、グローブしながら何かを取り出したり脱着できないかなとか。最近B L Kのジャケットに胸ポケットが重要視されているのも写真を撮りたいのですぐにポケットにアプローチできるようになっているんです。そういうアイデアを練るときにバイクに乗るのはとてもいい。アウトドアフィールドに行くのでも、バイクなら軽井沢から浅間山とかまですぐに行けちゃう。それがすごく楽しいのもあるし、実際にデザインにも役立つわけです。

― 今回のプロジェクトと関係なしに、もともとライフスタイルやデザインプロセスの中にバイクが組み込まれていたのですね。

相澤 : そうです。ファッションって、言葉の通り“流行”って解釈しちゃうと、自分が体験していないものでも、「流行っているからやる」じゃないですか。長年アウトドアをテーマとしてきて、大きな時流になってくると様々な企業が同じようなコンセプトでブランドを作ったりして、そういうものに仕事として声をかけてもらったけど話をする中で意味がないと分かってしまい、何もしないことが多い。なぜならそこの人たちが本当にアウトドアを楽しんでいるかというと、実際のところやっていないことが多くて。僕は自分がやっていること、興味があることにコネクトしていかないと、ブランドも続かないと思うんです。デザイナーとしての責任と重さを理解しているつもりだから流行っているから後を追うという行為がナンセンスだと思っています。

そう考えると今関わっているNOT A HOTELは真剣に日本のリゾートを変えようと思っているし、僕がディテレクションしている北軽井沢のB A S Eは実用性と理想と将来性が合致しているプロジェクトだと思っていますよ。北軽井沢という環境での生活とアウトドアライフの両立、また僕が長年やってきたWhite Mountaineeringの考え方を取り入れたいというオファーがあり全てがマッチした企画だったので引き受けました。もはやウェアデザインではないのですが(笑)

White Mountaineering 相澤陽介 NOTO A HOTEL

機能とファッションの飽くなき追求

― White Mountaineeringで長年「機能とファッション」を追求してきたと思いますが、2006年のスタートからこの18年の間には国内でも海外でも競合は増えてきましたよね。そういう情勢はどうご覧になっているのですか?

相澤 : 確かに増えていますけど、ただまあ、僕が始めたことというわけではないですから。先週パリでもエロルソン・ヒュー(Errolson Hugh)に会いましたが、エロルソンは僕なんかよりも前から、さらにハードコアなことをACRONYMでやっていたし(※1995年に設立)。日本も昔からアウトドアをファッションにするというのはやっていますからね。

― いわゆる“ヘビーデューティ”ですね。

相澤 : そうそう。実は一番フィットするフィールドではあるんですよ、日本って。そこから僕を含めていろんなインフルーエンスが出初めて、ヨーロッパでもそれが主流になってきて、僕らみたいなブランドがパリでもずっと続けられる環境になってきたというか。それこそメゾンがスノーボードウェアを出したりもしてますよね。あれもそういう延長だと思うし、Monclerが世界的に成功しているのも同じ理由。ファッションのジャンルとして確実に意味があったものをどうやって解釈するか、発表するかが肝だった。それを比較的早めにやってただけで、僕が作り出したものではないんですよ。

― だからこそ受け入れられやすくなっているとも言えるし、飽きさせない努力もしなければならない。

相澤 : その両方ですよね。機能美みたいなものを受け入れられやすい環境はできているなと思うし、逆にそれだけやっててもつまらないと思われる。僕はアウトドアブランドではないし、ハードな環境で使うことのみを重要視しているわけでなく、自分の方法論を提示していくことがパリでやっていること。それはアウトドアウェアの解釈の幅を広げることだと思っていますし、ファッションデザインとしてメンズのストーリーには必ずアウトドアに通ずる何かがあると信じているから9年間もパリで模索しているんだと思いますよ。

先日パリで発表された2024AWシーズンのルック

プロダクトへの責任感

White Mountaineering 相澤陽介 Triumph トライアンフ

― 先ほどから聞いていると、相澤さんにはプロダクトへの責任感みたいなものを感じます。

相澤 : それは特にユニフォームデザインをやりはじめたからだと思います。たとえばヤマト運輸のユニフォーム(※ 相澤が2020年にデザイン)なんて、見ない日がないですよね。僕も自分がデザインした洋服が日常に取り入れられているのを毎日見るわけです。ヤマト運輸では約10万人の従業員がいて、常に問題点を改善して行かなきゃいけない。そういう「使っていく中で成長していく服」みたいなのは重要な気がしているんです。あとはUNIQLOとのコラボに関しても、老若男女国籍も超えて様々な人に着用してもらってきた。先日パリに行った時もユニクロとのコラボレーションを着ている人を多く見たいし、それこそファッションが第一ではない環境で見かけることが多くあります。これは僕が長年思っていたファッションの新しい形で、ファッションデザインというものが固定したジャンルではなく、大きなデザインの枠の中での表現方法の一つだということです。自分がデザインしているものに対して、「どう責任を取るか」っていうのは難しいですけど、一個一個意味を見出しながら世に出していかないといけないと、より強く思うようになりました。

― UNOQLO なんかはきっと、クレームへの対策は大変ですよね。言われやすいという点でも。

相澤 : プロダクトとしての深い検証を繰り返し使う人にストレスがないウェアを提供することが最も需要だと考えると仕事をしてみてユニクロは素晴らしいと思います。僕は条件が多くハードルが高いことを乗り越えて何事もないようにクリエイティブを提供するという姿勢が最も難しいと長年考えてきていましたし、今も変わっていません。僕が大学生だった90年代後半にユニバーサルデザインという言葉ができて使う側に寄り添ったデザインというカテゴリーが様々ジャンルで確立し今のサスティナブルというキーワードにつながっています。何故かファッションの世界ではそういった考えは大衆化された思考だと線引きされているように思っていました。もちろんいい部分もあるし自分が影響された世界観もそこにあったりします。だた自分の今の年齢になり洋服だけではファッションを語れなくなった今違和感を感じることもあります。

― ユニフォームのデザインや、大量生産のためのデザインというのは、かつてのミリタリーウェアみたいなものですよね。過酷な環境に向けてのデザインを、効率的にデザインするという点でも。

相澤 : そうですね。僕がなんでファッションをやっているのかっていう面白さはそこなんです。上っ面なところをさらってそれっぽくするんじゃなくて、バイクだったらこういうカルチャーとファンクションがあればいいなとか、バイクというプロダクトと自分たちの服が融合するにはどうしたらいいんだろうとか、切って貼ってみたいなコラージュではなく、具体性を持ってやりたいと思っていて。洋服は袖が2つでパンツも足が2本で、基本的にそれをモディファイして、アップデートする繰り返しなんですけど、そこに何の意味があるのかっていうのは、深く考えを持っていないと長年海外でやっていけない。ヨーロッパのブランドとコラボレーションが多いのは、そこに自分の考え方を埋め込んでいるのを評価してもらっているのかなと思います。だってコレクションが終わった後にジャーナリストからは質問責めになるし、海外のブランドではデザイナーとして言葉を求めらます。それらのことを理解してもらうことが重要だと身をもってやってきましたから。

― そのためにも、自らがやっているものや興味のあることであるべきだということですね。

相澤 : 僕がいま軽井沢に住んでいるのも、18年前に「アウトドアとファッション」って言い始めて、東京ベースで代官山にアトリエがあるだけではなく、テストの場所を軽井沢、山の中にすればさらに信頼度も高くなるだろうし、自分達の服を買ってくれているお客様にも安心してもらえると思ったからです。なるべく作ったら自分で着て、バイクで走って、軽井沢に住んでいるからキャンプは最近しなくなったんですけど、スノーボードはずっとやっている。僕のブランドにおいてはマーケティング優先ではなく、提供する側がそれを楽しんでいるかどうかっていうのが、歳を重ねてくるとすごく重要なことだと感じるんですよね。

White Mountaineering 相澤陽介 Triumph トライアンフ

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10 questions to YOSUKE AIZAWA

  1. 最近日本国内で面白いと思う場所は?

北海道。 
スノーボードが好きなのもあるし、北海道コンサドーレ札幌(の取締役兼ディレクター)もやっているから色んな繋がりもできていて。そのうち北海道に家作りたいなって思うくらいです。

2.注目している海外の都市は?

こないだ行って面白かったのはコペンハーゲン(デンマーク)。
インテリアデザインも歴史があるし、街並みがどんどんモダンな建物が建っていたり。
古い街並みから新しい街並みに作り直していたりとか、躍動感がすごいと思いました

3. いま密かにハマっていることは?

実はずっとやってますけど、料理。
軽井沢の家のキッチンは僕の身長に合わせています。
イタリアの仕事が多いので、イタリアで食べたものを再現したり。完全に趣味ですね。

4.ずっと聴いている音楽は?

AORかな。
昔のパーラメントのCMに使われてた曲とかをレコードで聴いています。
「パーラメント」でプレイリストがあるんですよ。ボビー・コールドウェルとか入れて(笑)。

5.定期的に通っている飲食店は?

ないです。
最近はもう家で作って食べていますね。

6.やめたいのにやめられないことは?

酒(笑)。
あんまりこだわっていないですけど、焼酎かワインをよく飲みます。

7.やっていて一番楽しいと思うことは?

いっぱいありすぎて分からない。
楽器弾いてるときも楽しいし、バイク乗っている時もスノーボードの時も楽しい。
ただ、多趣味だけど全部突き詰めることはしていないです。

8. いま一番怖いことは?

健康(笑)。

9.自分が絶対にやらないことは?

群れない。

10.デザインとは?

説明ができるもの。
歳を重ねると、「なんとなくいいんだよね」っていうものは作っちゃいけないなと思います。

Profile
相澤陽介 | Yosuke Aizawa

1977年生まれ。多摩美術大学デザイン科染織デザイン専攻を卒業。COMME des GARÇONSを経て2006年にWhite Mountaineering®︎をスタート。これまでにMoncler W、BURTON THIRTEEN、LARDINI BY YOSUKEAIZAWAなど様々なブランドのデザインを手掛ける。現在では、イタリアブランドのCOLMAR(コルマール)にてデザイナーを務めるほか、サッカーJリーグ北海道コンサドーレ札幌の取締役兼ディレクターにも就任。その他、多摩美術⼤学、東北芸術⼯科⼤学の客員教授も務める。
https://whitemountaineering.com
https://www.instagram.com/whitemountaineering_official/
https://www.instagram.com/yosukeaizawa/

[INFORMATION]
Triumph モーターサイクル
https://www.triumphmotorcycles.jp

[編集後記]
相澤さんに取材したのは4年振りだった。ちょうどその頃から相澤さんの動きはどんどん激しくなっていた。数々のコラボレーションやデザイナー契約、そしてヤマト運輸のユニフォームデザインの話もしてくれた記憶がある。どうしてそれだけの話が相澤さんのところに舞い込んでくるのか、という冒頭に書いた疑問は、今回改めて取材をすることで理解を深めることができた。責任感のある、説明可能なデザイン、そしてそれを自らが楽しみながら作ること。シンプルな正解には違いないが、なかなか実現出来る人はいない。(武井)