デスティネーション・ストア | HONEYEE.COM的個性派シティガイド
File 038:MONTANA SHOP TOKYO(東京都・西新橋)
スマートフォンでどこにでも行った気になれる時代。むしろスマートフォン片手に「ここにしかない」を体感しに行ってみてはどうだろう。HONEYEE.COMが選んだ“目的地になる店”を紹介する連載「デスティネーション・ストア」。File 038はグラフィティースプレーブランド Montana Colors の東京ストアとして、西新橋にお店を構える「MONTANA SHOP TOKYO」。
Text Takaaki Miyake
アート専用スプレーのパイオニア
グラフィティーに使用されるスプレー缶と言っても、色はもちろんのこと種類や使用感、匂いなどもブランドによって様々で、当然個人の好みも多岐にわたる。中でもスペイン・バルセロナの地で1994年に誕生したスプレーペイントブランドの Montana Colors は、世界初のグラフィティーアート専門のスプレーを生み出し、Osgemeos や Nychos、Cope2 や MADSAKI など世界中のアーティストやグラフィティーライターたちから愛される存在として知られる。ドーナツリングと呼ばれるスプレーの色が外からでも分かる仕様も現在では様々なブランドが採用しているが、これも Montana Colors による発明だ。
今回の「MONTANA SHOP TOKYO」は日本国内における Montana Colors の正規代理店も務め、2010年からは前身のお店を都立大でひっそりと営業していたが、2019年に虎ノ門駅から近い西新橋エリアに場所を移した。
オーナーであるIshidaさんはアメリカへ渡米をきっかけに90年代のニューヨークで REVS&COST などのグラフィティーカルチャーに触発され、その後も世界中を渡り歩きながらグラフィティーとの関係性を深めていった。最後にたどり着いたバルセロナで友人を介して当時の Montana Colors のオーナーと出会い、それが「MONTANA SHOP TOKYO」オープンのきっかけだ。
憧れの聖地として
今年で30周年を迎える Montana Colors ではブランド当初から販売を続ける“ハードコア”、ブランドの設立年に由来する“94”など様々なシリーズがあり、東京ストアでは350種類以上ものカラーが揃う。「MONTANA SHOP TOKYO」の店内に足を踏み入れるとすぐ目に入るのが、カウンター裏に整然と並べられたこの印象的なスプレー缶の数々だ。
足を運ぶ人の中にはこの光景を一目見るためだけに来ることもあると言い、現在はスタッフとして働くメンバーも以前は地方から夜行バスで訪れたというほど。この聖地化している“景観”を崩さないためにも極力雑貨など他のアイテムは置かず、スプレーに集中してもらえるようなお店作りを意識している。そのため店内のカウンターに下絵を広げながら、カラー選びに数時間を費やすアーティストの姿もここでは珍しくない。
また種類豊富なカラーの中には“TOKYO PINK”や“TOFU”、“BONSAI”など日本とゆかりのあるカラーネームも並び、オーナーファミリーの親日ぶりが伺える。ちなみに各国のディストリビューター家族に女子が生まれると、子供の名前にちなんだ色を作ってくれるというのもユニークだ。
ポストバンクシーで変化した日本のアート観
日本ではニッチだったグラフィティーアートも近年、特にバンクシーが一般的に知られる存在になってからはその見方も少しずつ変化しているとIshidaさんは言う。
「一昔前の日本では単なる落書きという印象が強かったのに対して、最近は若い女性の方も来店されることも多くなり、間口が広がっているのを年々感じています。そういったイメージを払拭したくて長年やってきたので嬉しいですね。最近は洋服にペイントしたい方などもいて、ファッションの文脈におけるラグジュアリーブランドとの結びつきが影響していると思います。美術界自体もストリートアートを現代では無視できなくなってきていますね。
特にウチに来る若い方は反骨精神を持っているような気がしていて、日本人でも海外からのお客さんでも、日本のカルチャーや世界情勢など、いろんなテーマで長話することも多いです。今後アート制作を始めるような人にはカラーバリエーションだけでなく、スプレーキャップなど細かい説明もしています」
フリーウォールを東京の街に
渋谷などのグラフィティーと親和性の高い場所よりも、意外性のあるオフィス街をあえて選んだ「MONTANA SHOP TOKYO」だが、実は近年このエリアを中心にアートを盛り上げる動きが見られている。
付近にはアーティストの Usugrow と Imaone、建築デザイナーの野村郁恵が「新虎画廊」を2021年にオープンし、お店の隣のビルにはIshidaさんらがプロデュースをした JONJON GREEN によるミューラルアートも2017年から街の一部となっている。
「グラフィティーは絶対に廃れないカルチャーだと思っていて、Montana Colors がブランド誕生から30年経っても存在しているのが何よりも証拠です。カルチャーとして強いメッセージ性を持っていますが、壁画プロジェクトも増えた一方で日本にはまだまだフリーウォールの数が圧倒的に少ないです。Montana Colors のスプレーは大きな壁を彩る際に最も威力を発揮するので、自由に描ける壁がもっと増えてほしいですね。
この仕事は大変だし決してすごく儲かるビジネスではないのですが、グレーな東京の街の景色がカラフルになるのを見ていきたいです。そして Montana Colors がなくなると困る人も必ずいるので、そういった人のためにも今後一つでも多くのフリーウォール作りにも貢献していきたいと考えています」
ちなみに新店になってからは営業時間が長くなり、土日もオープンしているため急な入用にも心強い。プロ仕様ながらも少しでもグラフィティーに興味がある方は、周辺のアート鑑賞を楽しみながら勇気を出して一度足を運んでみては?
DESTINATION STORES | File 38
モンタナショップトーキョー | MONTANA SHOP TOKYO
東京都港区西新橋2-19-5 カザマビル 1F
営業時間:14:00〜19:00
定休日:月曜日
https://montanacolors.jp/
https://www.instagram.com/montanacolors_japan/