インタビュー | UNDERCOVER 髙橋盾はなぜ絵を描くのか
2023.08.24
髙橋盾 UNDERCOVER アンダーカバー 髙橋盾

初の絵画個展『THEY CAN SEE MORE THAN YOU CAN SEE』

Edit&Text by Yukihisa Takei(HONEYEE.COM)
photos by Keisuke Nagoshi(UM)

2023年8月19日(土)、東京・表参道のGALLERY TARGETにおいて、UNDERCOVERの髙橋盾による初の絵画展『THEY CAN SEE MORE THAN YOU CAN SEE』がスタートした。かねてより髙橋が絵画を描いていることは一部で知られていたが、今回初めて作品として世に解き放たれた形だ。

作品はカルチャーアイコンたちの“目のない肖像画”を中心に、UNDERCOVERでもお馴染みの“HOLY GRACE”、“GILAPPLE”といったキャラクターの立体ブロンズも含めた計31作品。どの作品からもUNDERCOVER、そして髙橋盾の世界観がダイレクトに伝わってくる。なぜいま作家として改めてアート作品を送り出したのか。会期前日、搬入を終えたばかりのギャラリーで、本人に話を聞くことができた。

独学で油絵を描き始める

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― 今回発表された作品は、いつ頃から描き始めたのですか。

髙橋 : 油絵自体は2013年頃からですけど、ずっと描き続けてきたわけではなくて、描いては2、3年描かなかったりとか。そもそも習ったこともなかったけど、とりあえず描いてみようと思って始めたのはその頃です。

― 絵を描こうと思われたのはなぜですか?

髙橋 : 小さい頃からずっと絵は描き続けていて、いつか油絵にトライしてみたいなという思いはずっとあったんです。実際にやってみたら、「描けるかも」という感触があって、写真とかを見ながら模写をして、やり方も把握していった感じですね。

 アクリル絵の具に比べると、油絵は技法的にも難しいですよね。

髙橋 : 油絵ってすぐには乾かなくて、ちょっと間を置いて塗り直しとかもできるじゃないですか。そこが自分には合っていたと思います。一気に焦って描き上げるよりは、少しゆっくり描けるというか。

― 「絵の具を買うか」という直接のきっかけは何だったのでしょう。

髙橋 : 最初は何か描いてみたいものがあったんですよ。それで一回インターネットで何が必要なのかを調べて、世界堂に行って色々聞きながら買ってきて。描いてみて、「あ、こういうことか」と。手法に関しては習っていないので、やりながら失敗しつつ学んでいくという感じですね。本当に最近気づいたことも多いし。

 髙橋さんは音楽や映画を含めた様々なカルチャーに対する興味をお持ちですが、アートに関してはどのような作家や作品に惹かれてきたのでしょうか。

髙橋 : 写真に興味がなかったわけじゃないけど、僕はやっぱり絵なんですね。自分でも小さい頃から描いていたし、本当に歴史上の人から最近の人まで、好きなアーティストは沢山います。そういう人たちの作品を見ながら、自分だったらこう描くかなとか、色んな想像をしていました。

髙橋盾 UNDERCOVER アンダーカバー 髙橋盾

― 今回の作品の中にはピカソのゲルニカを再構築した作品もありましたが、例えばピカソに対するリスペクトもあったりするのですか。

髙橋 : それはもう。ピカソもフランシス・ベーコンも、どこか影のある作品を描く人に影響を受けているなと思いますね。

― 事前リリースに「モチーフ選びから完成まで一人で出来るその自由な表現の虜になった」とありました。ファッションをデザインし、商品化するまでのプロセスに何か個人的なストレスのようなものがあったのでしょうか。

髙橋 : そこはストレスではないですね。洋服の場合は自分でデザインをして、あとはパタンナーだったりが服の形を作って、量産するのは工場さんだったりするじゃないですか。そういうプロセスを踏むプロダクトっていうのは当たり前なので。でも絵の場合は、最初から最後まで自分の感覚だし、ここだなと思った時点で(手を)止めることもできる。そこは大分違いますけど、あくまで別の思考ですね。

描いたのは“影と表のバランス”のある人物たち

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― 今回メイン作品は“UNTITLED”になっていますがJONIO”さんの名前の由来である人物の肖像を描いた理由は何だったのでしょうか。

髙橋 : やっぱり影響は受けている人ですからね。

― 特に今回は数点連作で描いていて、メイン作品は非売品だったりしますね。特別な思い入れもあるということですね。

髙橋 : うん、あれは自分で取っておきたいんです。最初は目も描いていたんですけど、何か違うなと思って目を塗りつぶしてしばらくしたら、「ああ、これはもう仕上がりだな」という感じがあった作品で。自分の作る洋服にも近い感覚がありますけど、目があるより自分の世界観に合っているっていうのを気づいたスタートの作品ですね。

髙橋盾 UNDERCOVER アンダーカバー 髙橋盾
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― 会場で全作品を拝見したのですが、本当に“UNDERCOVER”な世界観ですよね。

髙橋 : まあ、そうですよね。自分が描いているので(笑)。全部直接描いているので、他の何者でもないというか。そこは洋服より強いかもしれないですね。

― 一連の“目のない肖像画”でモチーフに選んだ方々には何か共通点のようなものがあるのでしょうか。

髙橋 : それは多分、影と表のバランスが面白い人たちというか。どこかに背負っていたり、抱えたたりするものがある人。ただキレイとかカッコいいとかじゃなくて、“その裏にあるものを表現している人たち”ということはあるかもしれないです。

― その人物像イコール、髙橋さんがカルチャー的にも惹かれ続けてきたものでもある。

髙橋 : そうですね。まだ描いていない人もいっぱいいると思います。ただ、そういう人が他にいても、自分で描く対象として、自分の作品のテイストに合うかどうかでふるいにかけていました。

― じゃあ今後に登場する可能性も。

髙橋 : うーん、どうでしょう。何描くかまだ分かんないですけど(笑)。あまり考えずに行こうかなと。

― 今回はギャラリーに展示されるということは、作品を販売することにもなったわけですが、正直少し意外でした。

髙橋 : どうせやるのであれば、作品として発表した=世に出して行きたいという想いがあったんです。今は(ファッション)デザイナーですが、「絵描きになりたいけど……」というのは小さい頃からずっとあったので、そこが強いですね。いつかちゃんと描いてみたい、でも中途半端に描くんだったらやりたくない。でも描き進めていくうちに、「これだったら見せられるな」っていうのが出てきたので、(GALLERY TARGETの)水野さんに相談して今回の個展になりました。

パンク、民藝、千利休……既成概念を壊した人物に惹かれる

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― 少し話は逸れますが、髙橋さんが近年、河井寛次郎(※)に対する興味を深めているとお聞きしました。河井寛次郎から受けるものとはどんなものでしょうか。

※河井寛次郎…陶芸家。日本の民藝運動の中心人物のひとり。(1890〜1966年)

髙橋 : 河井寛次郎先生は、民藝系の他の人たちとは違っていて、もっと何だろう、宇宙的な世界観を作っているというか。器じゃなくて、もっと広いもの。もちろんアートではあるんですけど、器であっても器じゃないものになっているんですよね。そこが自分的には惹かれる部分で。自分も洋服だけど洋服じゃないとか、もっとボーダレスな作品を作っている感覚が寛次郎先生と共通しているところかな。これ(絵画作品)もそうですけど、何か魂が入ったものを作りたいというか。

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― まさに“We Make Noise Not Clothes.”ですね。

髙橋 : そうです。そういうこととかも含めて。

― 近年のUNDERCOVERは千利休をコレクションの中に登場させる(2022SS ONCE IN A LIFETIME)など、パンクを中心にした海外カルチャーのイメージもある髙橋さんが、改めて日本の文化に興味を持っている背景には何があるのでしょうか。

髙橋 : パンクというイメージが強いかもしれないけど、パンクなんて今ほとんど聴かないんで(笑)。それはあくまで中学の頃までのスタート地点で、そこから派生して、音楽で言えば本当に色んなジャンルを聴くし。そういう中で言えば民藝とか和のものとかも自分の中では全部一緒です。パンクも利休も自分の中では一緒なんです。

― 無理矢理パンクに繋げてしまいますが、千利休という人も……。

髙橋 : パンクですよね(笑)。パンクってやっぱり既成概念とかを壊していく存在で、自分が影響を受けるものって、既成概念とか「あなたこうですよ」と言われていることに対して、それをぶち壊して新しいものを生み出した人。自分が影響を受けている人の共通点の一つかもしれないです。千利休も、寛次郎先生なんかも特にそうです。

MADSAKIとの創作交流

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― この5年ほど、日本の特にストリート界隈におけるアートの浸透は目を見張るものがありますが、そのような流れを髙橋さんはどのように感じていたのでしょうか。

髙橋 : それはすごくいいことだと思います。

― 例えば髙橋さんと昔一緒に作品を作ったMADSAKIさんなども、かなり大きな存在になりましたよね。

髙橋 : 今回MADSAKIとは本当に毎日やりとりしているんです。僕がインスタで全体像を見せないで、クローズで見せるようにしていたんですね。投稿すると彼からすごく反応があって。「目のないポートレートを描いているんだけど、自分のものになっていないんだよね。描き続けないとダメかな?」とか聞くと、MADSAKIから「それはジョニーが描き続けていると絶対出てくるよ!」って。「そうかなー」、「とうとう見えてきたよ」みたいに色々話しながら。感覚的に作っているものは全然違うけど、本当に彼とは話し合えるというか。

― それこそMADSAKIさんが日本に戻ってきた時に、最初に一緒にやったのが髙橋さんでしたよね。「GAS BOOK 19(MADSAKI / JUN TAKAHASHI)」(2005年)でも発表されていたりしますが、あの頃から彼の中には何か感じていたんですか?

髙橋 : もの凄く感じていて、あの時も言葉じゃなくて、作品のぶつけ合いで一個の作品が出来たという点でも、自分にとってそういう人ってなかなかいないので。それができる稀な人というか。彼とは本当に何か繋がっている感じはあります。まだ見せていないけど、今回MADSAKIの反応はめちゃくちゃ見たいですね。

UNDERCOVERは続いて行く

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― 貴重な機会なので、現在のUNDERCOVERについても聞かせてください。毎シーズン様々なテーマでコレクションを展開されていますが、この早いファッションのサイクルの中でも長年クリエイションを続けられる理由をお聞かせください。

髙橋 : そういう仕事を選んだ以上そういうサイクルでやるほかないじゃないですか。そのサイクルを崩してしまうとこの職業成り立たないし。ただ、サイクルで言えばそうなんですけど、一回一回テーマを設定することに関して言えば、自分の世界観を投入してやらないと、ただのビジネスになってしまう。自分の場合は絵を描くのとちょっと近いところありますけど、量産して洋服を売るっていうファッションビジネスに、自分の感覚を色濃く出して、作品、つまり洋服にして行きたいという気持ちがあるので。ただそれはもう当たり前で、デザイナーとしては基本だと思いますけど。

― しかしそれを続けて行くというのは非常に大変なことだなと推察します。

髙橋 : 大変です(笑)。何にも(アイデアが)ない時もあるし、何やろう?と思う時もある。それでもやっぱり生み出して行く。

― そのためにもカルチャー的なインプットは必要というか。

髙橋 : 必要……かもしれないですね。でも僕の場合はやっぱり癖です。音楽、アートとかそういうのが好きで、そこからインスパイアされることが多いので。キャッチしに行っているわけじゃなくて、キャッチしちゃうんです。それは小さい頃からの癖ですね。

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Profile
髙橋盾 | Jun Takahashi 

UNDERCOVERデザイナー。1969年群馬県桐生市生まれ。文化服装学院在学中の1991年に友人とUNDERCOVERを始める。1997年毎日ファッション大賞新人賞、2001年と2013年に毎日ファッション大賞を受賞。2002年よりパリコレクションに参加。NIKEとのコラボレーションラインGYAKUSOUやUNIQLOとのコラボレーションなども多数。
https://undercoverism.com/
https://www.instagram.com/joniotakahashi/

[INFORMATION] 
『THEY CAN SEE MORE THAN YOU CAN SEE』 by JUN TAKAHASHI   

2023年8月19日(土) 〜 9月9日(土) Open: 12:00 – 19:00 *月曜・日曜休廊   
会場 : GALLERY TARGET 東京都渋谷区神宮前5-9-25 1F  
TEL : 03-6427-3038 
https://www.gallery-target.com

[編集後記]
花井祐介さんの取材をGALLERY TARGETでさせていただいた時に、今回の個展の予定を聞いて、非常に期待していた。開催を告知する事前リリースとして、“目のない肖像画”の画像が届き、さらに期待は高まっていたが、展示はそれ以上のものであり、UNDERCOVER、そして髙橋盾さんそのものの世界が広がっていた。さらに今回は、その創作の背景まで聞くことができたので、貴重なインタビューになったと思う。ぜひ会期中にGALLERY TARGETに足を運んでいただきたい。(武井)