デスティネーション・ストア | File 036
2024.03.01

デスティネーション・ストア | HONEYEE.COM的個性派シティガイド 
File 036:TROVE SHOP(東京都・湯島)

スマートフォンでどこにでも行った気になれる時代。むしろスマートフォン片手に「ここにしかない」を体感しに行ってみてはどうだろう。HONEYEE.COMが選んだ“目的地になる店”を紹介する連載「デスティネーション・ストア」。File 036で紹介するのは洋服屋のイメージがあまりない文京区・湯島で、ファッションブランド のTROVE がひっそりと構えるお店「TROVE SHOP」。

Text Takaaki Miyake

渋谷から湯島へ

TROVE SHOP

2005年にスタートしたファッションブランド TROVE は、リラックスをコンセプトにした上質かつタイムレスで日常に溶け込むアイテムを展開。毎シーズンそのコレクションに魅せられるファンも多く、ブランド設立3年目にして早くも渋谷へ直営店をオープンしたが、2022年に新たなステージに向けて13年間営業を続けたその地を離れた。

新天地はお茶の水駅や本郷三丁目駅から徒歩圏にあり、エリアで言うと文京区の中でもローカルな湯島。一般的にはファッションとの文脈が希薄に見えるが、渋谷店の立ち上げからブランドに携わり、現在ではデザイナーとお店のディレクターも務める吉村卓さん​​は移転を決断した理由は主に二つあったと話す。

「そもそも渋谷のお店は前任のデザイナーが伝えたい世界観をベースにした空間になっていたんです。TROVE も来年で20年を迎えるなかでデザインチームに体制の変化に伴い、自然と作ったり提案したりするモノも変わっていきました。特に 和ROBE というカジュアルな和装のラインをスタートしてからは以前の店の内装とイメージが合わず、広さとしても手狭になってしまいました。

さらに渋谷といいう場所で営業をしていると、良くも悪くも来店してくださる方が多かった反面、落ち着いて洋服を見ることができないということもありました」

こだわりを細部に詰め、決して安価な洋服ではないからこそしっかりと見てほしい。足を運んだからにはしっかると“おもてなし“ができるような空間作りを行うため、規模の拡張という意味合いでも移転を決めたという。

ローカル、そしてオフラインの体験

TROVE SHOP

都内の中心地や目抜き通りはあえて避け、まさに目的地となるようなお店を目指した「TROVE SHOP」。現在は単なるブランドの直営店としてではなく、偶然の出会いや地域との繋がりを大切にしたイベントや展示も開催しており、設計や什器もギャラリーのように機能するようなシームレスな空間となっている。

「場所は少し分かりずらいですが意外にも付近の駅からは徒歩圏ですし、少し足を伸ばせば浅草や蔵前までも行ける立地です。とは言え洋服屋としては未開の地なので、お店を目指して来てくださった方が楽しんでいただけるよう、僕たちが色々と提案をすれば少しでも来店の意味も感じてもらえるのではと思っています」

場所柄もあってか辺りにはチェーン店が少なく、ローカルに愛される個店が多く目立つ。さらに街としては江戸から続く食事処という歴史を持ち、数百年続く老舗の和菓子屋や料亭も珍しくない。

「周りにはあまり知られていない名店や、逆に列を作るほどの人気な飲食店があるんです。実は近くにある『麺屋 睡蓮』というラーメン屋​​の店主と親交があり、ちょうど10周年のタイミングでオリジナルの刺繍を入れたキャップを制作させていただきました。他にも『ホンカトリー』というカレー屋ともコラボレーションをして、お買い物をしてくださった方に食事チケットをお渡ししたこともあります。洋服のこの空間を通してコミュニティ作り、そしてとにかく皆さんが楽しめる空間になればという想いです」

ちなみにそのキャップは大量生産の現代では珍しい最小ロットで作った上、オンラインでは一切告知をせずに近隣の人へ向けた手売りのみというユニークな試み。TROVE の洋服はもちろん公式サイトでも購入はできるが、こういったオフラインの体験こそが来店者の心をくすぐるのかも知れない。

縁で繋がるTROVE SHOP

TROVE SHOP

「TROVE SHOP」では毎シーズン発表されるコレクションのアイテム以外に、カスタムオーダーができるファクトリー的な提案もしている。これは本社のある岐阜県内に自社工場を構える生産背景があるからこそ可能なアプローチだ。店内に並ぶ洋服の販売だけではない、アトリエのような要素もこのお店には宿っている。

さらに店内の鏡裏には隠し扉が存在し、開いた先に続く階段を降りた地下には茶室が設けられている。このスペースはブランドのコンセプトである“リラックス”を色濃く投影。過去には実際に茶会を開催したり、他にも今後はスペシャルなアイテムを展示したりを予定している。

TROVE SHOP

「ここは少し休憩していただいたりする空間であると同時に、僕と 和ROBE のデザイナーである二人の興味あることを掘り下げる場所でもあります。だけど大切なのは熱量や真剣さで、そこに嘘があると本気の提案はできません。なのでコラボレーションは普段から僕らの作る洋服を好きで着てくれているといった、何かしらのご縁を大切にしています。

知名度などは関係ない、コマーシャルやビジネス的な派生の仕方は今後もありません。今後もブランドとお店というプラットフォームを通して、そういった輪を広げいきたいですね」

「行けばきっとそこには何かがある」。そう思わせてくれるのが「TROVE SHOP」の魅力なのかもしれない。

DESTINATION STORES | File 36
トローヴ ショップ | TROVE SHOP
東京都文京区湯島2丁目2−5
営業時間:12:00〜18:00
定休日:火・水・木
https://shop.trove.co.jp/
https://www.instagram.com/trove_info/